2012年9月30日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月30日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • リラックス・ホルモンの急性心不全試験が成功
  • 長期作用性B型血友病薬の第三相試験が成功
  • ノボの速効性第VIIa因子は第三相で開発中止
  • 新興企業が治験結果発表を撤回(抗PS抗体、belinostat)
  • アヴェオ・オンコロジーがtivozanibを米国で承認申請
  • アリアドがbcr-abl阻害剤のローリング承認申請を完了
  • BMS/ファイザーのapixabanが承認審査第二巡入り
  • バイエルの結腸直腸癌用薬が米国で承認



【新薬開発】


リラックス・ホルモンの急性心不全試験が成功

(2012年9月24日)

ノバルティスは、RLX030(serelaxin)の第三相急性心不全試験が成功したと発表した。呼吸困難症状に係わる二つの主評価項目の一つが成功しただけでなく、死亡率も低かった由だ。どちらの解析が成功したのか、どの程度改善したのかは明らかにされず、11月のAHA(米国心臓協会)科学会議で発表される見込み。

RLX030は遺伝子組換え型のヒトrelaxin-2。Relaxin-2は体内のホルモンで、女性が妊娠すると心血管や腎臓の変化、再生産道の弛緩などを調停するとのことだ。第二相試験で急性心不全患者に対する効果の兆しが見られ、ノバルティスが2010年に開発会社であったCortheraを買収した。

第二相用量変動試験はよくわからない点も多かった。用量依存性が見られず、最低用量の30mcg/kgを投与した群の呼吸困難症状改善効果が最も高かった。この群の症状改善奏功率と180日心血管死は偽薬比有意に優れていたが、pは0.04であり、多重性を考慮すれば有意とはいえないだろう。

American Heart Journalに刊行されたデザイン・ペーパーによると、第三相試験は急性心不全で収縮期血圧が125 mmHg超の患者1,161人を組入れた無作為化偽薬対照試験。RLX030は一日30mcg/kgを48時間連続静注点滴、血圧が大きく下がったら中止する。主評価項目の一つは呼吸困難の重さをVAS(ビジュアル・アナログ・スケール)を用いて5日間に亘って評価・記録し、AUC(曲線化面積)を偽薬群と比較した。もう一つは中程度以上の改善に成功した患者の比率で、6時間、12時間、24時間後に評価した。

急性心不全の臨床試験はなかなか成功しないし、症状改善に成功しても、死亡率の高い病気であることを考えれば死亡リスク削減効果を検討すべきという批判を受けがちだ。デザイン・ペーパーによると、EUの承認審査機関は新薬開発ガイドラインの中で、延命効果を確認することが望ましいが、症状改善効果を確認するだけでも、死亡リスクが高まらないことを条件に可、としている。FDAも過去の相談で同様な意見を表明したようだ。

全死亡が少なかったのはポジティブだが、主評価項目ではなく、この解析より上位の解析がフェールしているので、pが0.05を下回っても統計学的に有意とは言えない。副作用で死亡が増加する懸念はなかった、位に受け止めるべきだろう。また、この試験一本だけで販売承認を取るためには、効果が著しく高くなければならないだろう。結局、呼吸困難症状を改善する効果が患者にとって意味のあるものであったかどうかが学会発表時の注目点になりそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:Ponikowskiらのデザイン・ペーパー(PubMed。AHJのサイトでオープン・アクセス)

長期作用性B型血友病薬の第三相試験が成功

(2012年9月26日)

バイオジェン・アイデック(NASDAQ: BIIB)とスエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO: SOBI)は、遺伝子組換え型長期作用性第IX因子の第三相試験が成功したと発表した。出血リスクが高いB型血友病患者を組入れた予防試験で、出血エピソードの頻度が6~13分の1に減少した。米国では来年上期に、欧州では小児試験を終えてから、承認申請される予定。

B型血友病は第IX因子が欠乏・活性低下していて、出血時に血液凝固・止血できないため、遺伝子組換え型第IX因子を投与する必要がある。頻繁に出血し治療を受ける患者には予防的投与も行われている模様だが、現在の製剤は作用が短いので3~4日に一回投与しなければならない。

SOBIがBIIBと共同開発しているrFIXFcは、第IX因子と免疫グロブリンG1を細胞融合して体内で分解されにくくしたもの。今回の第三相試験では、週一回投与する用法と、患者に合わせて投与頻度を調整する方法を、出血時に治療する(予防は行わない)方法と比較したところ、各群の出血エピソードが年率2.95回、1.38回、17.69回となり、予防に成功した。

頻度調整群の投与実績は、メジアンで14日に1回だった。現行の製剤の3~4分の1で済むことになる。出血時投与群では、90%のケースでは一回の投与で治療に奏功した。

両社は、A型血友病に用いる長期作用性第VIII因子も開発中だ。

リンク:両社ののプレスリリース

ノボの速効性第VIIa因子は第三相で開発中止

(2012年9月28日)

長期作用性の第IX因子や第VIII因子など、遺伝子組換え型血液凝固因子新薬は複数の会社が臨床開発中で、ノボ・ノルディスクもその一社だ。同社は遺伝子組換え型活性化第VII因子NovoSevenの作用を早くしたNN1731(vatreptacog alfa)をスーパーセブンとして第三相入りさせたが、開発中止となった。被験者数人で試験薬に対する抗体が誘導されたため。

このうち一人の抗体はNN1731の活性を中和する可能性が示唆された。また、一部の患者の抗体はNovoSevenにも結合する交差抗体だった。幸いなことに、試験薬の効果を阻害する抗体ではなさそうで、治療の妨げにはならなかった模様だ。

血液凝固因子などの高分子薬を投与すると体内でそれに対する抗体が誘導されることがあり、既存の薬も頻度が少ないだけで発生しないわけではない。有名なところでは、欧州でジョンソン・エンド・ジョンソンのエポエチンを使った患者でPRCA(真性赤血球形成不全)が多発したことがある。薬に対する抗体が天然のエリスロポエチンの効果まで阻害し、赤血球を増やすどころか減ってしまったのである。深刻な副作用と呼べるだろう。

NN1731はそこまで酷くはないようだが、第VIII因子や第IX因子に対する抗体(インヒビター)を持ち第VII因子を代用しなければならない患者も使うだろうから、潜在的には深刻なリスクである。NovoSevenでは発生したことがない由なので、今回の開発中止は頷ける。

リンク:ノボのプレスリリース

新興企業が治験結果発表を撤回

(2012年9月24日)

新興企業が臨床試験の結果速報を撤回・修正することが時々ある。株式公開企業は重要な情報をタイムリーに公表する義務があるので、治験結果は良くても悪くても速やかに公表しなければならない。しかし、臨床試験の経験が豊富な企業は少ないので、アウトソース先でトラブルが発覚したり、解析方法が厳格でなかったり、関連企業とのコミュニケーションが不十分だったりすることに気付かずに、すべての検証が終わる前に『勇み足』で発表してしまうことが起き得る。先週は、私が過去に報じた二件のニュースが撤回された。

まず、2012年9月9日号の記事、『PFSは延びなかったがOSは延びた!』で報じたPeregrine Pharmaceuicals(NASDAQ: PPHM)の抗PS抗体の第二相非小細胞性肺癌二次治療試験。「実力なのか、フェイクなのか?治験論文刊行が待望される。」と記したが、それ以前に、試験薬と偽薬の割付に過ちがあった可能性が浮上した。一部の患者に対する検査で、コードの割付と不一致が発見されたのである。群の割付や試験薬・偽薬のコード付与、配布を担当した外注先がミスをしたようだ。

実際に何を投与したのか追跡できれば良いが、できなかった場合は第二相試験をやりなおすことになる。大変な時間の無駄である。

そう言えば、MSD(米国メルク)が日本で行った子宮頸癌予防用ワクチンの試験でも、類似したトラブルが発生し、承認申請が大幅に遅延したことがある。開発者は治験が完了するまで群の割付や薬の配布が正しく行われているかを確認できないので、大企業でもこのようなことが起こり得るのである。

リンク:Peregrineのプレスリリース

もう一件は9月23日号で報じたbelinostatの第二相末梢T細胞リンパ腫試験だ。スペクトラム・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: SPPI)に導出したTopotarget社が21日に治験成功と発表した。「スペクトラム側ではプレスリリースを出していない。」と記したが、24日に出されたリリースは意外なものだった。未だ7人が治療中でデータベースロックは11~12月、最終解析はその後、というのである。

癌の第一相、第二相試験では途中で何度も中間解析を行うことも珍しくないが、承認申請するつもりなら、統計学的に正しい方法で解析を行わなければならない。この試験は群が一つしかないので何れにせよきちんとした解析はできないのだが、中間解析結果を公表すると治験医に先入観を与えORR(客観的奏功率)の評価が甘くなるかもしれないので、好ましくない。

末梢T細胞性リンパ腫の治療薬が同様な単群試験のORRのデータに基づいて承認された前例があるが、承認審査機関にしてみれば、エビデンス・レベルが高い良くデザインされた無作為化対照試験で延命またはそれに準じる効果が確認されていない薬を承認するのは不本意だろう。それだけに、エビデンスとしての価値を更に下げるようなことはするべきではない。今回の勇み足と訂正は、承認審査にも影を落としそうだ。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

リンク:Topotargetの21日のプレスリリース

【承認申請】


アヴェオ・オンコロジーがtivozanibを米国で承認申請

(2012年9月28日)

アヴェオ・オンコロジー(NASDAQ: AVEO)はVEGF受容体阻害剤tivozanibをFDAに承認申請したと発表した。適応症は末期腎細胞腫で、化学療法未経験の患者を組入れた第三相試験では、無増悪生存期間がメジアン11.9ヶ月と、バイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を投与した群の9.1ヶ月より長かった。インターフェロンやインターロイキンによる治療を受けていない患者では12.7ヶ月対9.1ヶ月と差が更に広がった。

この試験はハードルが低い。末期腎細胞腫の一次治療はNexavarではなくファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を用いるのが通常だからだ。tivozanibも二次治療、三次治療で用いられる可能性が高いが、Sutentに反応しない患者に対する効果は明確ではない。

tivozanibは2007年にキリンからアジア以外の権利を取得したもの。2011年にアステラスがアヴェオと共同開発販売する権利を取得している。

リンク:アヴェオとアステラス製薬の共同プレスリリース

アリアドがbcr-abl阻害剤のローリング承認申請を完了

(2012年9月27日)

アリアド・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: ARIA)はAP24534(ponatinib)のローリング承認申請を完了したと発表した。前臨床や臨床データは既に提出しFDAが承認審査を開始しているはずなので、通常より早く承認される可能性がある。

ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)と同様なbcr-abl阻害剤で、Gleevecなどの既存薬に抵抗性・不耐の慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病に用いる薬として承認申請した。既存のbcr-abl阻害剤三剤に抵抗性を持つT315I変異型にも活性を持つことが特徴だ。

リンク:アリアドのプレスリリース

【承認審査】


BMS/ファイザーのapixabanが承認審査第二巡入り

(2012年9月26日)

米国の承認審査は、承認申請、受理、審査、結果通知というプロセスを経る。審査結果は承認または審査完了(Complete Response、字義通りに訳すと完全回答)のどちらかであり、後者の通知は、承認しない理由や足りない情報が記されている。承認申請者が不足情報を提出しFDAが完全回答(Complete Response)と認めると、第二巡に入り、新たな審査期限(通称PDUFA)が通知される。第二巡の審査期間は、内容が軽微なら2ヶ月、そうでなければ6ヶ月となる。

BMS/ファイザーは2011年9月にXa阻害剤apixabanを心房細動患者の脳卒中予防薬として米国で承認申請し、優先審査指定を受けたが、2012年6月に審査完了通知を受領した。臨床試験のデータ管理や検証に関する追加情報を求められた模様だ。両社が提出したところ、完全回答と認められ、承認審査期限は6ヶ月後の2013年3月17日となった。

FDAの心血管用薬チームのリーダーは、アウトカム試験が必ずしも厳格に実施されていないことと、疑問点を残したまま承認するFDAの現状に疑問を持っていて、徹底的な調査・検討を行う癖がある。第一三共/イーライリリーのEfient(prasugrel)などの承認審査が長引いたのは、これが原因とみなされている。

apixabanのワーファリン対照試験は心血管領域で数々の重要なアウトカム試験を実施したデューク大学に在籍する研究者が主導しており、学会の評価は高いのだが、心血管チーム・リーダーは、決して大きくない治療効果を正しく検出するためには、打切り例をできるだけ少なくしたり、評価項目の報告漏れを防ぐことが重要と考えているようだ。

アウトカム試験は費用が嵩むため、比較的安い東欧やアジアの施設で多くの患者を組入れるケースが増加した。しかし、治験の厳格さに対する考え方は国により区々であり、我が日本も、欧米ほど厳格ではないようだ。失敗経験が少ないため、理論がどんなに立派でも検証試験をやらなければ真実とは言えないことに気付かないのである。副作用渦や不正論文事件も軌道修正の契機になりうるのだが、喉元過ぎると熱さを忘れてしまう。

本題に戻ると、人間は万能ではないので真実解明を待っていたら患者を救えない。どこかの段階で真相探求を完了し、後は、今後実施される試験で同じ問題を起こさないよう、学会やオピニオン・リーダーに働きかけることになるだろう。

今回のFDAの問題提起は承認申請者が3ヶ月で完全回答できるようなものではなく、6ヶ月審査となったことも、FDAが簡単に審査できるものではないことを示唆している。しかし、有用な薬の一つなのだから、やがて承認されるだろう。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

【承認】


バイエルの結腸直腸癌用薬が米国で承認

(2012年9月27日)

バイエルは、FDAがStivarga(regorafenib)を結腸直腸癌のサルベージ療法として承認したと発表した。審査期限より1ヶ月近く早かった。臨床試験では、全ての既存薬による治療を既に受けてしまった患者をStivarga群(28日サイクルで最初の21日間、160mgを一日一回経口投与)と支持療法だけの群に無作為化割付したところ、中間解析でメジアン生存期間が各6.4ヶ月と5.0ヶ月、ハザードレシオ0.77、p=0.0102となった。この試験は日本の施設も参加した。

ORRは両群大差なく、メジアン無増悪進行期間は10日程度の差しかなかったが、何と言っても、寿命が1ヶ月延びたことが重要だ。抗癌剤には深刻な副作用が付き物で、Stivargaは重篤なそして致死性もある肝臓障害が枠付警告されている。

Stivargaは同社のNexavarと酷似しており、Naxavarの共同開発者であるオニキス(NASDAQ: ONXX)が権利を主張、結局、頭金と売上ロイヤルティを払うことになった。

報道によると、WAC(問屋取得価格)は1サイクル分が9350ドル。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2012年9月23日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月23日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • PTCL用薬の承認申請用試験が成功
  • TH-302は全生存期間の解析はフェール
  • ベーリンガー・インゲルハイムが腫瘍学領域で初の承認申請
  • ドイツのメルクがアービタックスの肺癌適応拡大申請を撤回
  • Proliaの適応拡大が米国で承認
  • CHMPが肯定的評価(新薬:Constella、Eylea。適応拡大:Eliquis、Avastin、Votubia、Cialis)
  • Qsymiaは米国で発売、EUは承認遅延
  • FDAがビ・シフロールの心不全リスクに関する情報を公開
  • BMSの治験で死亡した患者



【新薬開発】


PTCL用薬の承認申請用試験が成功

(2012年9月21日)

デンマークのTopotarget(NASDAQ OMX: TOPO)は、PXD101(belipostat)の末梢T細胞性リンパ腫試験が成功したと発表した。開発パートナーである米国のスペクトラム・ファーマシューティカルズ(NASDAQ GM:SPPI)が実施しているもので、スペクトラムが2013年上期に米国で承認申請する見込み。

末梢T細胞性リンパ腫はT細胞の異常増殖により発生する様々なリンパ腫の総称で、年間発病数は日米欧の主要7ヶ国で15,000人。米国では新薬が続々と登場しており、09年にアロス・セラピュティクスの代謝拮抗剤Folotyn(pralatrexate)が承認された。スペクトラムは今年、アロスを買収したばかりだ。

09年に承認されたもう一つがHDAC(ヒストン・ジアセチラーゼ)阻害剤Istodax(romidepsin)で、藤沢薬品(当時)が創製しセルジーン(NASDAQ: CELG)が販売している。belipostatはIstodaxと同じHDAC阻害剤で、スペクトラムは北米とインドの販売権を保有している。

今回の試験は再発性難治性末梢T細胞性リンパ腫の129人を組入れた単群試験。1000mg/m2を30分点滴静注で一日一回、5日連続投与するコースを21日サイクルで施行した。Topotargetによると、FDAの特別プロトコル審査(SPA)を受けており客観的反応率(ORR)が20%を上回る必要があるが、ハードルをクリアした。

スペクトラム側ではプレスリリースを出していない。

リンク:Topotargetのプレスリリース

TH-302は全生存期間の解析はフェール

(2012年9月17日)

Threshold Pharmaceuticals(NASDAQ: THLD)と開発販売パートナーのメルク(XETRA:MRK)は、低酸素標的薬TH-302の末期膵癌後期第二相試験の追加解析結果を公表した。主評価項目である無増悪生存期間(PFS)の解析が成功したことが既に公表されていたが、今回の全生存期間の解析はフェールした。

この試験は、初めて薬物療法を受ける患者に標準療法であるgemcitabineだけでなくTH-302も併用する効果を検討したもの。体表面積1平方メートル当り240mgと340mgの二種類の量をテストした。PFSの解析ではgemcitabineだけの群がメジアン3.6ヶ月であったのに対して低用量群が5.5ヶ月、高用量群が6.0ヶ月となり、併用二群と単剤群のハザードレシオは0.61、統計的に有意だった。

全生存の解析もメジアン値では各群6.9ヶ月、8.7ヶ月、9.2ヶ月と2ヶ月前後の差があったが、ハザードレシオでは低用量群0.96、高用量群0.955と殆ど同じだった。

この試験では、単剤群の患者が増悪後にgemcitabineとTH-302の併用療法を受けることが認められていた。この「クロスオーバー」は偽薬群の患者にとって有利な措置であり、倫理面の配慮や治験組入れを円滑に進める意図で広く採用されている。欠点は、第一に、全生存期間の群間差が薄れてしまうことだ。もし全員がクロスオーバーした場合、実質的には、一次治療で使う方法と二次治療で使う方法を比較することになってしまう。

両社は、延命効果が顕在化しなかった原因はクロスオーバーと考えている様子だ。しかし、クロスオーバーにはもう一つの欠点がある。偽薬群の医師や患者に、早く増悪を認定してクロスオーバーするインセンティブを与えることだ。過去に行われた単剤投与試験のカプラン・マイヤー・カーブを見ると、試験薬群はプロトコルで定められた初回造影検査の前後に増悪を認定される患者が多いが、偽薬群は治療が始まるや否や、次から次へと増悪認定されていく。抗癌剤は特徴的な副作用を持っているので、偽薬対照二重盲検でも見当を付けることは可能だ。

本試験は併用試験なので対照群の患者も標準的な治療を受けることができるが、偽薬を用いていないので、治験医が望めば、早い段階でクロスオーバーすることができる。迂闊なことは言えないので一般論として言えば、私はPFSという評価項目が好きではない。

リンク:
Thresholdのプレスリリース


【承認申請・承認】


ベーリンガー・インゲルハイムが腫瘍学領域で初の承認申請

(2012年9月20日)

ベーリンガー・インゲルハイムは株式を公開していない未上場企業ながら、COPD用薬や抗血栓薬、血糖治療薬など続々と新薬を投入している。抗癌剤にも積極的に取組んできたが、遂に、第一号の新薬を欧州で承認申請した。EGFR/her2阻害剤のBIBW 2992(afatinib)で、EGFR変異型非小細胞性肺癌の一次治療薬として申請された。

Iressa(gefetinib)やTarceva(erlotinib)に次ぐサード・イン・クラス。先行品の開発は市販後も紆余曲折し、最終的に、非小細胞性肺癌の中でも変異EGFRを持つタイプだけがよく反応することが明らかになった。ベーリンガーは追いかける者の強みを生かし、このタイプに標的を絞り込んで効率的に、しかし様々な試験を行い、EGFR変異型肺線種癌の一次治療における効果が標準的な二剤併用療法よりも優れていることを第三相のLux-Lung 3試験で明らかにした。

因みにこの試験も主評価項目はPFSで全生存期間の解析結果はまだ公表されていない。非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認を取るためには、少なくとも米国では、延命効果を確認する必要があるのではないか?別の試験でPFSは延びたものの延命効果が確認できなかったことがあるので、重要なポイントだろう。

afatinibはEGFRを不可逆的に阻害し、また、her2も阻害するので、先行品より効果が高い可能性がある。IressaやTarcevaと直接比較する試験が進行中なので、やがて明らかになるだろう。同じ理由で、先行品が無効な癌にも効くかもしれない。乳癌などで第三相試験中だ。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

ドイツのメルクがアービタックスの肺癌適応拡大申請を撤回

(2012年9月18日)

Erbitux(cetuximab、和名アービタックス)はEGFRに結合するキメラ・モノクローナル抗体で、作用メカニズムとしてはEGFRが発する細胞内シグナルを阻害するIressaやTarcavaに似ているが、承認されている用途は全く異なる。

IressaとTarcevaの主用途が非小細胞性肺癌であるのに対して、Erbituxの第三相非小細胞性肺癌試験はEGFR陽性だけに絞り込んだvinorelbine・cisplatin併用一次治療FLEX試験が成功しただけで、タクサン系抗癌剤・carboplatin併用一次治療試験も、pemetrexed併用二次治療試験もフェールした。米国で適応拡大申請されたが、FDAはFLEX試験を薬効のエビデンスと認めず、承認されなかった。

米国で販売されているErbituxは欧州などの製品と異なる模様であり、この点がボトルネックになったようだ。それだけに、米国外の権利を持つドイツのメルクの適応拡大申請は承認されるのではないかと思ったが、認められず、今回、申請撤回となった。

FLEXの結果がASCOで発表され喝采を浴びたのは何だったのだろう?

リンク:メルクのプレスリリース

Proliaの適応拡大が米国で承認

(2012年9月20日)

アムジェンの抗RANKL抗体Prolia(denosumab)を男の骨粗鬆症の治療に用いることが米国で承認された。骨粗鬆症性骨損壊のリスクが高い患者に用いる。骨粗鬆症は80%が女性で閉経後高齢女性に多いが、20%は男性であり、治療ガイドラインが一定の年齢になったらリスクの多寡を評価するよう推奨している。

RANKLは破骨細胞や前駆体のRANKを刺激して分化、活性化、増殖を刺激する天然のレガンド。Proliaはこのレガンドに結合して破骨細胞による骨塩流出を抑制する。閉経後骨粗鬆症の治療等に承認されているほか、投与頻度を増やして癌の骨転移を治療するための製品がXgeva(和名ランマーク、第一三共)名で承認されている。尚、多発骨髄腫の治療に用いることが承認されているのは日本だけで、米国でもEUでも承認されなかった。臨床試験で死亡リスクが対照薬より高い可能性が浮上したことが原因のようだ。

リンク:アムジェンのプレスリリース

CHMPが肯定的評価

(2012年9月21日)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品評価委員会、CHMPは、9月20日の月例会議で以下の新薬と適応拡大に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内に承認されるだろう。

リンク:各医薬品に対する意見のリンク・ページ

新薬:

Constella(linaclotide)

メーカー:アイアンウッド/アルミラル

適応症:便秘主導型過敏性腸症候群(IBS-C)

米国のIronwood Pharmaceuticals(NASDAQ: IRWD)が創製し欧州ではスペインのアルミラル(ALM:MC)と共同開発しているC型グアニル酸シクラーゼ受容体作動剤、ConstellaがEUで初のIBS-C治療薬として承認支持を受けた。アルミラルが販売する。小腸上皮のGC-C受容体を作動して、小腸液の分泌を促進、吸収を阻害する。Amitiza(lubiprostone、和名アミティーザ)と似たイメージの薬だ。

IBS-C治療薬は、腸のセロトニン受容体を作動・阻害する薬で稀だが深刻な副作用が発覚し、承認のハードルが高くなったはずだ。その中で、Amitizaに続いて有効で比較的安全な新薬が登場したことは評価できる。胃腸疾患で首相を辞任した人が復活できるほど効果が高いかどうかは私は知らない。

リンク:IBS-C治療薬で初の肯定的評価を報じるEMAのプレスリリース

リンク:両社のプレスリリース

Eylea(aflibercept)

メーカー:リジェネロン/バイエル

適応症:滲出型加齢黄斑変性

ジェネンテックが開発し米国外でノバルティスが販売するLucentis(ranibizumab)に類似した抗体医薬。米国のリジェネロン(NASdaQ: REGN)が創製し、欧州ではバイエルが販売する。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

尚、リジェネロンは9月21日に、FDAがEyleaを網膜中心静脈閉塞症の治療に用いる適応拡大を承認したことも発表した。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

適応拡大:

Eliquis(apixaban)

メーカー:BMS/ファイザー

適応症、効能:非弁膜性心房細動で高リスク患者の脳卒中予防

Xa阻害剤を開発する企業にとって本命の用途で承認支持を受けた。現在の用途である関節置換術後の心静脈血栓予防と比べて、予防の意義が大きく、服用期間が長いので、大きな需要が見込める。

ワーファリンやXa阻害剤、そして直接的トロンビン阻害剤は血栓形成を妨げることによって脳梗塞のような虚血性疾患のリスクを削減する。一方で、当然のことながら、出血事故のリスクも高まる。

臨床試験は選ばれた医療施設の選ばれた医師が、厳格な組入れ条件や除外条件に基づいて厳選した患者だけを対象として、患者の容態の変化を密接に観察しながら投与する。しかし、現実の医療では、高齢で様々な病気を持ち多くの薬を服用中の患者にも投与するので副作用の発生率が高まる。臨床試験ならすぐに発見して対処できる症例でも、患者が直ぐに医師に報告しなかったり、対応を誤ったりすることもあるので、深刻な副作用の発生率も高まる。だから、臨床試験で重篤な出血事故が有意に増えなかったとしても、油断すべきではない。

CHMPは、今回、Eliquisの禁忌追加も勧告した。まず、大出血のリスク因子として、現在・最近の胃腸潰瘍、出血リスクの高い悪性新生物(癌)、最近の脳・脊髄損傷、最近の脳・脊椎・整形手術、最近の頭蓋内出血、食道静脈瘤、動静脈異形成、動脈瘤、脊髄内・脳内血管異常を列挙した。更に、一部の場合を除いて、他の抗血栓薬の同時使用を禁じた。

何れも今更という印象だが、他の抗血栓薬で出血事故が多発したことに対する警戒感、反省の表れなのだろう。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

Avastin(bevacizumab)

メーカー:ロシュ

適応症:プラチナ感受性卵巣癌

アバスチンの用途がまた一つ、広がる。卵巣癌は一次治療で白金薬に反応したら再発後の二次治療も白金薬を用いるが、このプラチナ感受性卵巣癌の二次治療にアバスチンを併用する。

EUで承認されている用途は、転移性結腸直腸癌、転移性乳癌一次治療、末期非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療、末期腎細胞腫一次治療、末期卵巣癌一次治療で、何れも化学療法と二剤または三剤併用する。米国では転移性乳癌の承認が取り消されたが、神経膠芽腫に単剤投与することが承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

Votubia(everolimus)

メーカー:ノバルティス

適応症:結節性硬化症に合併した非癌性腎臓腫瘍の治療

mTOR阻害剤everolimusは様々な製品名で様々な病気の治療に用いられている。Votubiaは結節性硬化症治療用の欧州での製品名で、典型的な合併症の一つである上衣下巨細胞性星細胞腫の治療薬として承認されているが、今回、腎臓の悪性ではない腫瘍の治療薬としての適応拡大が支持された。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

Cialis(tadalafil)

メーカー:イーライリリー

適応症:良性前立腺肥大

EDの治療に用いられているPDE5阻害剤を良性前立腺肥大の治療に用いることが支持された。何年も前にプルーフ・オブ・コンセプトに成功しながら、開発が遅れたのはコストが原因だろう。ED治療薬は多くの国で保険適用外であるせいか良性前立腺肥大治療薬と比べて値段が高い。特許が切れてジェネリックが発売されるまでは出番が限られそうだ。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

Qsymiaは米国で発売、EUは承認遅延

(2012年9月18日)

ヴィーヴァス(NASDAQ: VVUS)は、肥満症治療薬Qsymiaが米国でアベイラブルになったことを9月18日に発表した。このような発表をするのは、医師が新薬を処方しても薬局に在庫がなかったら患者が困るからだ。アベイラブルになれば安んじて処方できる。尤も、Qsymiaは薬局チェーンのCVSとWallgreensのメールオーダー部門だけしか取り扱わないようだ。

ヴィーヴァスは他社が開発し医薬品として承認されている活性成分二種類を配合した合剤で、低用量で開始し、効果が不十分なら増量または治療を中止する。問屋取得価格(WAC)は低用量が月120ドル、高用量は183.9ドル。夫々の成分のGE品を二剤併用すればもっと安上がりだが、有効性は不明だ。

過去の例を見ると、GE化した成分を用いた新規合剤の売上高は芳しくない。大規模な試験を行って効果や正しい使用法を明確にすることは医療にとって重要な貢献であるはずだが、報われないのが現状である。他の二剤と異なりQsymiaを共同開発販売する製薬会社がいないのは、知的所有権が弱いことが一因だろう。医師や患者がヴィーヴァスに敬意を示すか、それとも費用を重視するか、まもなく判明するだろう。

一方、EUはQsymiaを承認しない見込みであることも9月21日に発表された。10月のCHMPで否定的評価が下る見込みだ。抗肥満薬の副作用騒動やフランスでスキャンダルが発生したことが影を落としているのだろう。

リンク:アベイラビリティーを告げるヴィーヴァスのプレスリリース

リンク:EUの審査状況に関するヴィーヴァスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがビ・シフロールの心不全リスクに関する情報を公開

(2012年9月19日)

FDAは、パーキンソン病やレストレス・レッグ症候群の治療薬として承認されているMirapex(pramipexole、和名ビ・シフロール)の心不全リスクに関する情報伝達を行った。

複数の疫学研究で心不全の懸念が発覚したため、無作為化割付偽薬対照試験のデータを用いてプール分析を行ったところ、確かに偽薬群より多かったが有意な差はなかった(pramipexole群は4157例中12例、偽薬群は2820例中4例)。疫学研究は様々な制約があることなどから、FDAは、結論は出せないと判定。メーカー(ベーリンガー・インゲルハイムのことだろう)に検討を要請したとのこと。

この疫学研究の一つは、メーカーが英国のGPデータベースを用いて行ったもの。Mirapex服用者の心不全リスクは非服用者より有意に高かった(リスク・レシオ1.86、95%信頼区間1.21-2.85)。因みにcabergoline(カベルゴリン)も2.2倍で有意に高かった。

もう一つの研究は欧州の複数の治療データベースを用いたもので、Mirapex服用者はレボドパ服用者と比べて心不全リスクが高かった(オド・レシオ1.61、95%信頼区間1.09-2.38)。奇妙なことに、服用開始後3ヶ月以内はリスクが有意に高かったが、それを過ぎると有意ではなくなった。

これらの研究は患者が何を治療する目的で服用したのかが明確ではなく、また、心不全の診断は査読を受けていない。Mirapexは末梢浮腫のリスクを持つので、この副作用が原因で心機能検査を受け、心不全と診断される患者が増えるのかもしれない。つまり、心不全ではなく検査のリスクが高まるだけかもしれない。

何れにせよ、重要な薬なので調査研究を続けて欲しいものだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Renouxらの疫学研究論文(PubMed)

リンク:Mokhlesらの疫学研究論文(PubMed)

BMSの治験で死亡した患者

(2012年9月15日)

BMSがC型慢性肝炎治療薬として開発していたBMS-986094は第二相試験で心不全による死亡例が発生し入院例も少なくなかったことから開発中止になった(8月5日号と8月19日号を参照)。同社は原因探求を進め、結果を承認審査機関や研究者に公表する考えだが、類薬を開発している企業は何が起きたのか、やきもきしているだろう。

そんな中、カンザスシティ・ドットコムに死亡した患者とその妻子の記事が掲載された。弁護士のコメントも出ているので薬害訴訟を踏まえたバイアスが紛れているかもしれないが、取り敢えず事実関係だけでも報じておこう。

この二十代の夫婦は二人ともC型肝炎に感染したが、医療保険に加入していないため、臨床試験に参加することになった。妻は治療に成功、ウイルスが探知不能になった。夫も治験を開始し、高用量の投与を受けたが、第5週に入ったところで嘔吐、腹痛、発汗、排尿障害などを発症。治験医は制吐剤を処方したが、妻が薬を買って帰宅する前に病状が悪化。救急車で運ばれた先で心不全と診断された。聖ルカ病院で一週間以上生命支持を受けたが8月10日に死亡した。

臨床試験が人体実験である以上、このような事件が起きるのは避けられない。私達にできるのは、被験者に予め十分な情報を提供することと、原因を解明し同じ失敗を繰り返さないことである。失敗に学ぶ上で重要なのは、事実を隠さずに共有することだ。私達一般人にとって重要なのは、過ちを犯した人を糾弾するだけに留まらず、何年掛かっても真実を解明するべく努力する人達を応援、激励しなければならない。

リンク:KansasCity.comの記事(大きなポップアップ広告が出ます・・・Closeボタンは画像の左上にあります)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2012年9月16日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月16日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 日本の試験が引き金で治験中断
  • 大塚/ルンドベックがFDAに回答
  • FDA諮問委員会はlixivaptanを支持せず
  • サノフィの多発性硬化症用薬が米国で承認



【新薬開発】


日本の試験が引き金で治験中断

(2012年9月13日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはJNJ-39758979の第二相試験を中断した。日本で実施されたアトピー性皮膚炎の第二相試験で二例の無顆粒球症が発生したため。Wall Street Journal紙が9月13日に報じたものだが、この日本の試験の治験登録を見ると、今年5月に報告されている。情報が多すぎて誰も気付かない、今日的な現象だ。

日本でも臨床試験が活発に行われるようになったが、数が増えると、今回のように日本発の情報が世界の新薬開発に影響する事例も増えてくる。有名なのはAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の末期胃がん試験だ。第三相グローバル試験がフェールしたが、地域別に見ると、日本と韓国を除けば有意な治療効果があった。日韓でも全然効果が無かった訳ではなく、対照群の生存期間が他の地域より長かったため、薬の効果が十分に発揮されなかったのではないかと私は思っている。

日本は胃癌摘出術後の生存期間が欧米より長いことが知られている。日本の医師の技術、治療法が優れているのかもしれないし、早期に発見し早期に手術するからかもしれないが、何れにせよ、医療風土の違いが治験成績に大きな影響を及ぼすことが分かる。薬の効果は病気が重いほど発揮されやすいので、予後が比較的良い患者に対する効果が小さくても不思議ではない。

Avastinと同様にロシュ・グループが開発している抗CD20ヒト化抗体、ocrelizumabも、日本のデータが原因で、多発性硬化症以外の適応症での開発が中止された。リウマチ性関節炎の第三相試験で日本の複数の患者が日和見感染症を発症したのである。ocrelizumabは抗CD20キメラ抗体Rituxan(rituximab、和名リツキサン)と同様にBセルを強力かつ長期間抑制するので感染症などのリスクが高まっても不思議は無いのだが、日本の施設以外ではあまり発生しなかったのだから、奇妙な話である。

外国の大量の治験データと国内の少数の治験データに基づいて承認される薬が増えているだけに、日本で変わった所見があった場合は、徹底的に調査、分析してそれが他の薬にもあてはまるかどうか、検証する必要があるだろう。

リンク:Wall Street Journalの記事(要登録かもしれない)

リンク:Lloyd's(保険会社)のサイトに掲載された同じ記事(登録不要)

リンク:日本のアトピー性皮膚炎第二相試験(ClinicalTrials.gov)

リンク:Avastinの胃癌試験の結果概要(『消化器癌治療の広場』)

リンク:ocrelizumabの第三相試験の深刻な感染症発生状況(2010年ACR抄録)

リンク:上記第三相試験の一つの治験論文(Annals of the Rheumatic Diseases、オープンアクセス)

【承認申請・承認】


大塚/ルンドベックがFDAに回答

(2012年9月12日)

大塚製薬は向精神薬Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の月一回注射用新製剤を米国で2011年に承認申請したが、今年7月に審査完了通知を受領した。指摘事項は溶解用注射用水の製造委託先の不備だけとのことだ。同社は指摘事項に対する回答を提出、この度、FDAに受理されたと発表した。審査期限は2013年2月28日。

BMSと共同開発販売しているAbilify錠は2015年に米国で特許が切れる。長期持効性製剤は一定の需要があり、物質特許が切れた後も製剤特許で保護されるので、ライフサイクル・マネジメント手法として有効だ。しかし、aripiprazole新製剤はBMSではなくルンドベックと開発販売提携した。両社の他の開発品も対象とする包括的な内容であることや、条件も有利だったのだろう。

リンク:大塚/ルンドベックのプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:大塚/ルンドベックのプレスリリース(英文)

FDA諮問委員会はlixivaptanを支持せず

(2012年9月13日)

FDAの心臓腎臓薬諮問委員会は、コーナーストーン社(Nasdaq: CRTX)が承認申請したバソプレシン2受容体拮抗剤、lixivaptanを支持しなかった。慢性心不全治療用途は全員が承認に反対、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)に伴う低ナトリウム血症の治療用途でも反対5人、賛成3人と反対が上回った。

原因は、第三相慢性心不全試験の中間解析で死亡率に偏りが見つかり、中止されたことである模様だ。心筋梗塞が多かった。薬との因果関係は明確ではない模様だが、もし副作用だとしたら、低ナトリウム血症の患者にも影響があるかもしれない。既にアステラス製薬のVaprisol(conivaptan)や大塚製薬のSamsca(tolvaptan)が承認されているので、懸念が払拭されるまで承認を遅らせても大きな問題はないだろう。

lixivaptanはCardiokine社が2004年にワイス(後にファイザーが買収)からライセンスし、バイオジェン・アイデックと共同で第三相試験を開始したが、2010年に提携解消となった。当時は明らかにされなかったが、慢性心不全試験が不首尾に終わったことが原因なのだろう。Cardiokineは2011年12月に承認申請した後、コーナーストーン社に買収された。

今回の話を聞いて、なぜこんな薬を承認申請したのか訝る読者もいるだろうが、大手製薬会社が忌避するようなリスクを敢て取る新興企業も少なくない。

リンク:コーナーストーンのプレスリリース

サノフィの多発性硬化症用薬が米国で承認

(2012年9月12日)

FDAはサノフィのAubagio(teriflunomide)を承認した。再発寛解型多発性硬化症の維持療法に用いる。第三相試験では再発頻度が偽薬比3割、少なかったが、Rebif(独メルクのベータ・インターフェロン製剤)群とは大差なかった。

ノバルティス(田辺三菱製薬)のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と同様に経口剤だが、再発抑制効果はやや小さく、深刻な肝障害のリスクや催奇性が枠付警告され、脱毛も見られる。一方で、日和見感染症や心毒性のリスクは比較的小さいように感じられるので、代替的な治療オプションとして用いられることになりそうだ。米国では注射薬であるAvonexやRebifより数%、Gilenyaより3割近く低い価格で発売される模様。

Aubagioは抗リウマチ薬Arava(leflunomide、和名アラバ)の代謝物で、ピリミジンの合成を阻害する。活性化したリンパ球は新生ピリミジンを必要とするので、合成を阻害することで自己免疫を抑制することが出来る。AubagioはAravaより肝毒性が小さいことが期待されたが、そうでもないようだ。

開発後期の多発性硬化症用薬で最も注目されているのは、バイオジェン・アイデックのBG-12(dimethyl fumarate)だ。経口剤で、効果はGilenya同様に高く、胃腸副作用や肝機能検査値異常が見られるものの深刻な副作用のリスクは小さい。本年末に承認されたら、GilenyaやAubagioの強力なライバルになりそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2012年9月9日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月9日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • PFSは延びなかったがOSは延びた!
  • アリムタの三剤併用試験はフェール
  • apremilastの乾癬性関節炎第三相試験がすべて成功
  • 第4のabl阻害剤が米国で承認
  • NPSと武田の短腸症候群用薬がEUで承認
  • インライタがEUでも承認



【新薬開発】


PFSは延びなかったがOSは延びた!

(2012年9月7日)

抗PS抗体の後期第二相試験でPFS(無増悪生存期間)の解析はフェールしたがOS(全生存期間)が『統計的に有意に』改善した・・・CMSTO(シカゴ集学的胸部腫瘍学シンポジウム)での発表が議論を呼んでいる。開発社であるPeregrine Pharmaceuticals(Nasdaq: PPHM)の株価は9月7日に4.5ドル、前日比46%高と急騰した。実力なのか、フェイクなのか?治験論文刊行が待望される。

PS(ホスファチジルセリン)は細胞がウイルスに感染したり癌化したりすると細胞膜の表面側に移行し、免疫抑制的に作用すると考えられている。PeregrineのbavituximabはこのPSを標的とするG1型キメラ抗体で、これまでに慢性C型肝炎や肺癌、乳癌などに臨床試験が実施された。

今回の後期第二相試験は、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の二次治療を受ける患者121人を三群に無作為化割付した二重盲検試験で、標準療法であるdocetaxel(サノフィのタキソテール)にbavituximab(週一回点滴)を追加する効果を偽薬と比較した。ORR(反応率、主評価項目)とPFSは先に公表済みで、ORRは偽薬、1mg/kg群、3mg/kg群が各8%、15%、18%、PFSは3ヶ月、4.2ヶ月、4.5ヶ月となり何れも統計的に有意ではなかった。

ところが、今回発表されたOSの解析では、各群5.6ヶ月、11.1ヶ月、13.1ヶ月となり、ハザードレシオは1mg/kg群が0.512、p=0.0286、3mg/kg群は各0.539、0.0714、二群プール分析で統計的に有意という結果が出た。

通常なら、何かの偶然、あるいは、患者背景の偏りや治験離脱後の治療の違いが疑われるところだ。このような事象は過去にも見られたが、第三相試験で再現されなかったことが多いからである。

それでも楽観論を一蹴できないのは、化学療法と比べて効果が現れるまで時間が掛かる免疫療法ではありえないことではないからだ。 BMSの悪性黒色腫用薬Yervoy(ipilimumab)などの登場で、OSを見なければ効果を判定できない薬が存在することを否定できなくなった。

第三相試験の結果が出るまで真偽不明、としか言いようが無いが、現時点では実力と見做すには材料不足だ。被験者が少ないので当然とはいえ、p値はそれほど低くないので、偶然に統計的に有意な差が出た可能性も十分に考えられる。また、一口に非小細胞性肺癌と言ってもタイプによって平均余命が異なり、EGFRやALKに変異を持つタイプには有効な薬も存在する。更に、この試験はインドの施設で実施されたので、他の国、人種にも当てはまるのか不確かである。懐手で続報を待つ、くらいで良いのではないか?

リンク:Peregrineのプレスリリース

リンク:American Society for Radiation Oncologyのプレスリリースと学会発表抄録

アリムタの三剤併用試験はフェール

(2012年9月6日)

このCMSTOでは、Alimta(pemetrexed、和名アリムタ)の第三相適応拡大試験がフェールしたことも発表された。

切除不能非扁平上皮性非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者を組入れて、carboplatin、Avastin(bavacizumab)との三剤併用+コース終了時に奏効した患者はAvastinと二剤併用で維持療法を行う効果を、carboplatin、Avastin、paclitaxelによる導入療法+奏効者にAvastinの維持療法、というレジメンと比較したもの。メジアン生存期間は12.6ヶ月対13.4ヶ月、ハザードレシオ1.00で有意差が無かった。

無増悪生存期間のハザードレシオは0.83と有意だったが、メジアン値の差は1ヶ月足らずなので、あまり意味が無い。Alimtaは扁平上皮細胞以外の非小細胞性肺癌に効果があるので、該当する患者だけを組入れればよい結果が出るのではないかと思われたが、案外だった。非小細胞性肺癌の三剤併用試験は殆どがフェールしており、この壁は現在も厳然と立ちはだかっている。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:American Society for Radiation OncologyのCMSTO Late-breaker抄録(オープンアクセス)

apremilastの乾癬性関節炎第三相試験がすべて成功

(2012年9月6日)

アメリカのセルジーン(Nasdaq: CELG)は、経口PDE-4阻害剤CC-10004(apremilast)の乾癬性関節炎第三相試験が三本とも成功したと発表した。更に、ベーチェット病の第二相試験で口腔内潰瘍数を有意に抑制したことも明らかにした。

apremilastはTNFアルファやIL-6、インターフェロン・ガンマなどを抑制する作用を持ち、リウマチ性関節炎の第二相試験はフェールしたが、乾癬と乾癬に合併した関節炎の治療薬とした第三相へ進んだ。米国では2013年初めに後者の適応症で承認申請、乾癬は第三相試験の結果を待って2013年下期に承認申請、欧州は両方の適応症で2013年下期に申請する予定だ。

ベーチェット病は自己炎症性の希少疾患で、患者は地中海周辺国や日本などのアジアが中心。有効な薬が少なく、経口剤なので、ポジティブな発見だ。セルジーンは様々な国で承認申請の可能性について相談する考え。今回の試験で口腔内潰瘍を主評価項目としたのは多くの患者が発症するからだが、目や血管など患者によって様々な部位に症状が出るので、これらも抑制できるのか注目される。

リンク:セルジーンのプレスリリース

【承認申請・承認】


第4のabl阻害剤が米国で承認

(2012年9月4日)

ファイザーは、Bosulif(bosutinib)がフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病の二次、三次治療薬として承認されたと発表した。ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)とTasigna(nilotinib、和名タシグナ)、BMSのSprycel(dasatinib、和名スプリセル)に次ぐ第4のabl阻害剤となる。

承認の根拠となったのは単群試験の反応率(主要細胞遺伝学的反応率や血液学的完全反応率)なので、現時点では、効果が先行品とどう違うのか明らかではない。今後、直接比較試験が行われるだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

NPSと武田の短腸症候群用薬がEUで承認

(2012年9月4日)

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)と開発販売パートナーの武田薬品は、Revestive(teduglutide)がEUで短腸症候群用薬として承認されたと発表された。臨床試験では非経口栄養投与量を有意に減らした。

短腸症候群は腸の切除後などに発症する希少疾患で、食事を摂取できず栄養点滴が必要になる。Revestiveは小腸内膜の成長を促すGLP-2の類似物でアミノ酸を一つ置換して力価や半減期を改善した。米国でも承認審査中で10月に諮問委員会、審査期限は12月30日というスケジュール。武田が買収したナイコメッドが買収前の2007年にアメリカ、カナダ、メキシコ、イスラエル以外の開発販売権を取得した。

リンク:NPSと武田薬品のプレスリリース

インライタがEUでも承認

(2012年9月4日)

ファイザーは、VEGF受容体阻害剤Inlyta(axitinib、和名インライタ)がEUで腎細胞腫二次治療薬として承認されたと発表した。同社のSutent(sunitinib、和名スーテント)あるいはインターフェロンなど生物学的製剤による治療を既に受けた患者を組入れた第三相試験で無増悪生存期間がバイエルのNaxavar(sorafenib、ネクサバール)を有意に上回った。尤も、Sutent未経験の患者だけの解析では大差なかった。

ファイザーはこれまでに多くの製薬会社を買収、合併してきたが、つい数年前までは研究所や新薬開発プロジェクトの整理統合は行わなかった。InlytaはとSutentは作用期序が類似しているので今ならどちらかに絞り込むかもしれないが、後者が第二相試験で好成績を挙げ承認申請された後も、前者の臨床開発は続けられた。

忍容性はInlytaのほうが良さそうなので併用向きに思えたが、gemcitabine併用膵癌第三相試験はフェールし、結局、Sutentと同じ腎細胞腫単剤療法として発売されることになった。米国では今年1月、日本でも6月に承認されている。

VEGF受容体拮抗剤はSutent、Nexavarなど新薬が続々発売されているので、今後は、どのような患者にどの薬が最適なのか、それとも副作用の出方以外は同じなのか、検討することが望まれる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2012年9月2日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月2日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • QVA149の第三相試験が成功(?)
  • MSDはvorapaxarを承認申請する(!)
  • LY2140023の第三相開発は中止に
  • バイエルがregorafenibをGISTにも承認申請
  • FDAがサノフィの多発性硬化症用薬の承認申請を受理せず
  • T-DM1の全生存の解析が予想より早く成功
  • 米国で新薬が続々と承認
  • EUでアストラゼネカのMRSA作用性セファロスポリンとノバルティスの骨髄線維症用薬が承認
  • Efientの薬物療法付随試験はフェール



【新薬開発】


QVA149の第三相試験が成功(?)

(2012年8月30日)

ノバルティスはQVA149の第三相COPD増悪予防試験が成功したと発表した。これで5本の試験すべてが成功したことになる。同社は2012年末までに欧州と日本で承認申請する予定。

QVA149は欧州や日本で承認審査中の速効性持効性ムスカリン拮抗剤glycopyrronium bromideと、欧米日でCOPD向けに承認されている長期作用性ベータ2作用剤Onbrez(和名オンブレス)の活性成分であるindacaterolを配合した吸入用コンビ薬。今回のSPARK試験は、重度以上のCOPD患者の中重度増悪を防ぐ効果をglycopyrronium bromide単剤と64週間に亘って比べたもの。実数は未公表だが、pは0.038だった。

この試験では、オープンレーベル(盲検ではない)でSpiriva(tiotropium 、和名スピリーバ、持効性ムスカリン拮抗剤のベストセラー)を投与する群も設定されたが、この群とは有意差が無かった(p=0.096)。但し、軽度増悪も含めれば有意差があった(0.002)。有害事象プロファイルは他の二群と類似していた。

悩ましいのは、中重度増悪の差が有意とはいえp値はそれほど低くないことだ。予防効果が前提より小さかったのかもしれない。もし単剤と比べて少し良いくらいなら、失望的だ。

類似したコンビ薬はSpirivaを開発したベーリンガー・インゲルハイムや、GSKも開発している。どれが一番効果が高いのか、忍容性はどうか、今後明らかになっていくだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

MSDはvorapaxarを承認申請する(!)

(2012年8月26日)

MSD(NYSE: MRK)は、PAR-1阻害剤vorapaxarを2013年に欧米で承認申請する考え。欧州心臓学会(ESC)会議でTRA 2P-TIMI 50試験の心筋梗塞サブセグメント分析の結果が発表されたことに合わせて、公表された。

vorapaxarは血小板上のトロンビン受容体であるPAR-1を阻害する。トロンビンは血栓カスケードがある程度活性化した段階で増加するので、平時の作用が小さく、異なったメカニズムを持つアスピリンやPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と併用しても出血リスクが高まらないと考えられていた。

しかし、安定期虚血性心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を治療したTRA 2P-TIMI 50試験でも、亜急性期冠症候群を治療したTRA-ACS試験でも、脳卒中/頭蓋内出血など深刻な出血事故が偽薬群より多かった。中でも、脳卒中/TIA既往患者のリスクが高く、中間解析でリスクが確認された後、TRA 2P試験では該当者の組入れを中止、TRA-ACS試験は投薬を中止する事態になった。

一方、心筋梗塞歴しかない患者ではリスクがそれほど高まらず、ある程度の再発防止効果も見られた。ESCでは改めてこのサブセグメントだけのデータが発表された。同時に、Lancet誌が治験論文をオンラインで刊行した。

このサブセグメント分析の解釈は、学者によって意見が分かれているようだ。心血管死/心筋梗塞/脳卒中の発生率は8.1%対偽薬9.7%、HR0.80、pは0.0001未満なので効果はすごく高くはないもののリーズナブルである。しかし、出血リスクが中重度出血(GUSTO基準)で3.4%対2.1%、致死的出血や頭蓋内出血は有意ではないとはいえ1.5倍と多く、後者はp=0.07なので有意水準の二歩手前に過ぎない。

再発リスクが高い患者なら便益とリスクのバランスがもっと改善するかもしれないが、高リスクである急性冠症候群を治療したTRA-ACS試験では今回と同じ評価項目のHRが0.87と、それほど高くなかった。

vorapaxarの出血リスクは作用が長期間持続することが響いているのかもしれない。オフセットの早い薬なら違う結果になるかもしれないが、巨額の治験費用を考えると、猫の首に鈴を付けに行く会社が現れるだろうか?

リンク:MSDのプレスリリース

LY2140023の第三相開発は中止に

(2012年8月29日)

イーライリリーはLY2140023(pomaglumetad methionil)の統合失調症治療薬としての第三相試験を中止することを決めた。承認申請用の第二相試験のフェールに続いて、第三相試験も中間解析で無益性(継続しても成功する可能性は著しく低い)が認定され、更に、第二相アジャンクト試験も主評価項目がフェールした。このため、進行中の他の第三相試験も打ち切ることにした。

LY2140023はmGlu2/3受容体作動剤LY404039のプロドラッグ。探索的試験で効果の兆しが見られ、注目されたが、用量探索試験は薬効解析がフェールした。尤も、実薬を投与した群も有意差が出なかったため、試験薬がフェールしたのではなく治験がフェールした可能性も考えられた。

残念なニュースだが、mGlu受容体作動剤やモジュレータは他社も含めて活発な研究が行われており、統合失調症以外に有望な用途が見つかるかもしれない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請・承認】


バイエルがregorafenibをGISTにも承認申請

(2012年8月30日)

バイエルはVEGF受容体阻害剤BAY 73-4506(regorafenib)を4月に結腸直腸癌のサルベージ療法として欧米で承認申請したのに続いて、GIST(消化管間質腫瘍)のサルベージ療法としても米国で承認申請した。

結腸直腸癌の試験では全生存期間のハザードレシオが0.77、p=0.0052と良い数字が出たが、メジアン生存期間は6.4ヶ月で偽薬群の5.0ヶ月と比べてそれほど長くなかった。薬の副作用によるものと考えることもできる(poentially drug-related)死亡が4例あり、内容は心停止・喀血・肺塞栓というVEGFを阻害する薬にありがちなものだったことも懸念材料になりうる。

GISTでは無増悪生存期間のハザードレシオが0.27、pは0.0001未満と大変良い数字が出てメジアン値も4.8ヶ月と偽薬群の0.9ヶ月を大きく上回った。一方で二次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.77、p=0.20とまだ有意水準に到達していなかった。エビデンスの充実度の点では物足りない。

尤も、全生存の解析は何度かアップデートされるので、もっと新しい(観察期間と該当数が多い)データがあるだろう。それが良ければ順調に承認されるだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

FDAがサノフィの多発性硬化症用薬の承認申請を受理せず

(2012年8月27日)

サノフィの子会社であるジェンザイムは6月にLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として欧米で承認申請したが、FDAは受理しなかった(refuse-to-file)。詳細は明らかではないが、資料作成上の問題であるようだ。

承認審査機関にとって電子申請はデータの入力ミスなどを発見しやすく、また、承認申請者と異なった方法で分析するにも便利である。そのせいか、電子申請が導入された後、データやフォーマットの不備を理由に受理されないケースが散見されるようになった。

alemtuzumabは免疫細胞に発現するCD52を標的とする抗体医薬で、慢性リンパ性白血病向けにMabCampathまたはCampath名で販売されている。この製剤が多発性硬化症に転用されるとLemtradaを他の多発性硬化症用薬と同様な価格で販売することが困難になるため、サノフィは販売を中止した。医師が要望すれば供給を受けることが可能な模様だが、釈然としない。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

T-DM1の全生存の解析が予想より早く成功

(2012年8月27日)

ロシュはT-DM1(trastuzumab emtansine)を6月に米国で承認申請したが、薬効のエビデンスは無増悪生存期間だった。第三相試験のもう一つの主評価項目である延命効果は宿題になっていたが、成功したことが発表された。ロシュは間もなく欧州でも承認申請する予定。

この第三相試験は、Herceptinとタクサン系抗癌剤による治療を既に受けたher2陽性転移性乳癌の患者を組入れたEMILIA試験で、対照群はlapatinib(GSKのher2/EGFR阻害剤、和名タイケルブ)とXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)を併用した。無増悪生存期間は治験担当医の主観が影響する可能性があるが、この試験は実薬対照試験なので懸念が小さい。だが、それはそれとして、きちんと延命効果が確認されたことは意義がある。承認に追い風になるだろう。

T-DM1は乳癌向けに承認されているHerceptin(和名ハーセプチン)の活性成分である抗her2モノクローナル抗体に細胞毒を搭載した新しいタイプの抗癌剤。抗体が細胞毒を腫瘍細胞選択的に運ぶため、全身性副作用が比較的小さい長所がある。

リンク:ロシュのプレスリリース

米国で新薬が続々と承認

今週は新薬承認が多かった。ギリアッド、アイアンウッド/フォレスト、メディベーション/アステラス製薬の新薬が承認され、テバのG-CSFがバイオ後続品ではなく新薬として承認された。

ギリアッド(Nasdaq: GILD)のStribildが8月27日にHIVの一次治療薬として承認された。新開発のインテグラーゼ阻害剤elvitegravirとその体内における代謝を遅らせる新開発の3A4阻害剤cobicistat、そして同社が販売している核酸系逆転写阻害剤emtricitabineと tenofovir disoproxil fumarateの四種類の成分を配合し、一日一回、一錠を服用するだけで多剤併用療法を可能にした。

インテグラーゼ阻害剤はMSDのIsentressに次ぐ第二号であり、他の薬より使用歴が短い分、耐性ウイルスを持つ患者は少ないと考えられる。但し、Isentress抵抗性ウイルスの多くはelvitegravirにも抵抗性を持つと考えられる。フォレストは、年28500ドルの価格を予定している模様(問屋取得価格ベース)。elvitegravirは日本タバコからライセンスして開発したもの。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

米国のアイアンウッド社(Nasdaq: IRWD)とフォレスト社(NYSE: FRX)は、Linzess(linaclotide)が米国で承認されたと8月30日に発表した。適応症は便秘主導型過敏性腸症候群(IBS-C)と慢性特発性便秘。子マウスの試験で死亡例が発生したため、6歳未満は禁忌、6-17歳に使うのは避けるべき、という注意書が付けられた。大人にしか承認されていないのだが、オフレーベル使用を考慮して念を押したのだろう。

Linzessはファースト・イン・クラスの経口GC-C(Guanylate Cyclase C)作動剤で、小腸で局所的にcGMPを増加させ、疼痛感受神経の活性を低下させる、とのこと。第4四半期に発売される予定。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アイアンウッドとフォレストのプレスリリース

米国のメディベーション(Nasdaq: MDVN)がアステラス製薬と共同開発したXtandi(enzalutamide)が8月31日に承認された。適応症は、転移性の去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる治療を既に受けた患者。典型的な例で言えば、ホルモン療法薬に反応しなくなり疼痛などの症状が悪化して化学療法を受けたが反応しなかった、あるいは再進行したケースになる。治験では全生存のハザードレシオが偽薬群比0.63と大変良い成績を上げた。

enzalutamideはアンドロゲン受容体の細胞内シグナル伝達を阻害する経口剤。一昔前なら、ホルモン療法薬に反応しなくなった患者に有効とは想像できなかったかもしれないが、今日では、ホルモン療法抵抗性の原因はアンドロゲン受容体の過剰発現であり男性ホルモンが癌の成長を促進していることに変わりはないという考え方が主流になった。アンドロゲン独立性前立腺癌ではなく去勢抵抗性前立腺癌と呼ぶようになったのはこれが原因のようだ。

メディベーションはインライセンスした化合物の臨床開発に特化した会社で、enzalutamideはUCLAのMichael JungとMSKCCのCharles Sawyersが創製した。両氏は力価が更に高いARN-509を創製し、Aragon Pharmaceuticalsを社を設立して第二相試験を実施中。

Xtandiの価格はWAC(問屋取得価格)で1ヶ月分が7450ドルとなる模様。審査期限より3ヶ月早く承認されたせいか、発売は9月の予定。化学療法を受ける前の、まだ症状が出ていない、あるいは軽い患者を対象とした第三相試験も進行中で、おそらく成功するだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:メディベーションのプレスリリース

テバ(NYSE: TEVA)のfilgrastim製品はEUではバイオシミラーとして承認されたが、米国では普通の新薬としてTbo-filgrastim名で8月29日に承認された。米国はバイオシミラー/バイオ後続品の開発ガイドラインの作成が遅れたため、テバは通常の臨床試験を行って、新薬として承認申請せざるを得なかったのである。

filgrastim製品は米国ではアムジェンの特許が未だ有効で、テバはアムジェンとの合意に基づき2013年11月に発売する予定。通常のGE薬とは異なり臨床試験に金が掛かっているので、値段はそれほど割安ではないだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テバのプレスリリース

EUでアストラゼネカのMRSA作用性セファロスポリンとノバルティスの骨髄線維症用薬が承認

(2012年8月28日)

アストラゼネカはZinforo(ceftaroline fosamil)がEUで承認されたと発表した。セフェム系の静注用抗生物質で、適応症は複雑皮膚軟組織感染症(cSSTI)と地域感染肺炎(CAP)。前者ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染に対する有効性が確認されており、これは欧州初とのこと。

元々は武田薬品がペニンシュラ社に導出したものだが、ペニンシュラがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンアウトした会社を米国のフォレストが買収、アストラゼネカに北米や日本以外の権利を導出したもの。米国ではTeflaro名でフォレストが昨年、発売した。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

同日、ノバルティスもJakavi(ruxolitinib)のEU承認を発表した。JAK1とJAK2を阻害する経口剤で、三種類の骨髄線維症(慢性特発性、真性赤血球増多症に合併したもの、本態性血小板血症に合併したもの)を患う成人の脾臓腫大や症状を緩和する。米国のゲノム企業、インサイト(Nasdaq: INCY)から米国以外の開発販売権を取得したもの。米国では昨年、Jakafi名で承認されている。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【大規模試験】


Efientの薬物療法付随試験はフェール

(2012年8月26日)

第一三共がイーライリリーと共同開発・販売している抗血小板薬、Efient(prasugrel)の適応拡大試験、TRILOGYがフェールしたことがESCで26日に発表された。不安定狭心症または非ST上昇型急性冠症候群を発症して7日以内の、薬物療法だけを受ける患者に対する再発防止効果をPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と比較したが、ハザードレシオは0.91、p=0.21と有意な差が無かった。

この試験は解釈が難しい。カプラン・マイヤー推定による30ヶ月時点の心血管イベント発生率は13.9%対16.0%でまあまあな差があったのだが、最初の一年間は殆ど差が無かったため、ハザードレシオやpが押し上げられてしまった。長期間投与するならEfientのほうが良いと言えない事もないが、二年目以降のデータのほうがフェイクである可能性もあるので、結局、どっちも大差ないと考えざるを得ない。

実薬と大差ないなら効果があると認めても良いかもしれないが、この試験は非劣性試験ではないので、実薬比有意に劣っている可能性が否定された訳ではない。対象患者は多いので、もし効果が劣っていたら大きな影響が出る。未承認のまま使用している医師が使うのを止めるほどではないが、このデータを見て新たにオフレーベル使用するほどでもないだろう。米国でこの用途に承認される可能性も低いだろう。

主解析の対象になったのは75歳未満の患者だけだった。本試験のもう一つの注目点である75歳以上あるいは体重60kg未満の患者に対する低用量の有効性、安全性に関しては、今後、詳細な分析結果が発表されるだろう。

EfientはPlavixより力価が高く、また、プロドラッグではないので2C19薬物代謝酵素の機能が低い患者にも使いやすいはずである。しかし、これらを立証するためには試験管内の血小板凝集試験だけではなく、今回の試験や承認時のエビデンスであるTRITON試験のような大規模、長期、巨大予算の臨床試験を実施して再発予防効果を確認しなければならない。

Efientのシェアは低迷しており、今回の適応拡大試験がフェールしたことで、新たな牽引役も失ってしまった。

リンク:第一三共/イーライリリーのプレスリリース

リンク:ESCのプレスコンファレンスのウェブキャスト、スライド

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/