2012年7月29日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月29日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • アルツハイマー病薬の第三相試験:一本目はフェール
  • タルセバの肝細胞癌適応拡大試験がフェール
  • 武田がAMG706の第三相試験に再チャレンジ
  • アルミラルとフォレストが共同開発したCOPD維持療法用薬が米国で承認
  • 高純度EPA製剤が米国で承認
  • 欧州でエーザイの抗癲癇薬とヴァーテックスの膿胞性繊維症用薬が承認
  • FDA諮問委員会が二種類の眼科用薬の承認を支持
  • エビリファイの長期作用性筋注用製剤は承認遅延



【新薬開発】


アルツハイマー病薬の第三相試験:一本目はフェール

(2012年7月23日)

ファイザーはbapineuzumab(通称バピ)の第三相試験四本のうち、ApoE epsilon 4型の遺伝子を持つ患者(以下、キャリア)を対象に北米で実施した試験がフェールしたと発表した。

メディアの論調は「やっぱりアミロイド・ベータ標的薬は駄目」というニュアンスのものが多いが、第二相試験でもApoE型に対する効果は見られなかったのだから結論を急ぐべきではない。ApoEキャリアではない、ノンキャリを組入れた試験の結果が今夏中に出るまで、待つべきだろう。とはいえ、バピは第二相試験の裏付けが不十分なので、成功を期待べきではないだろう。

バピはアイルランドのバイオ企業、エランがワイスと共同開発した、アミロイド・ベータ(1-5)を標的とするヒト化抗体だ。エランは第三相試験ロンチ後に権利をジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)との合弁会社に移管、現在はJNJが開発の主導権を握っている。ワイスはその後、ファイザーが買収した。

アルツハイマー病の患者の脳にはアミロイドの蓄積が見られることから、凝集しやすいアミロイド・ベータの生成が発症の原因と考えるアミロイド仮説が生まれた。若年性アルツハイマー病ではアミロイドベータの生成に係わるセクレターゼの遺伝子の変異がしばしば見られることも理論的な裏付けになった。

一方で、アミロイドベータを除去しても無駄なのではないかという意見もある。エランとワイスはアミロイドベータに対する免疫を誘導するワクチンを開発し第二相試験を行ったことがある。被験者の4%で髄膜脳炎が発生したことから治験中止となったのだが、アルツハイマー病が進行して死亡した被験者の剖検で、アミロイドベータの除去が確認された。アミロイドベータを除去しても病気の進行を抑えることは出来ない可能性を示唆している。

バピの後期第二相試験はフェールしたが、サブセグメント分析でノンキャリには有意な治療効果が見られた。尤も、症例数が少ないためp値はそれほど低くなかった。忍容性面では、用量依存的な血管原性浮腫が見られ、中でも、キャリアの発症率が高かった。この浮腫はMRI画像上に現れる異常で、症状は伴わない模様だ。ファイザーは、ARIA-E(アミロイド関連造影異常-浮腫・浸出)と呼んでいる。

加齢性(老人性)アルツハイマー病の疾病関連遺伝子はあまり見つかっていないが、ApoE epsilon 4型キャリアはノンキャリより発症率が高い。アセチルコリン還元酵素阻害剤やグリタゾンの臨床試験で、片方には効いたがもう片方には効かないという現象が見られたが、真実なのか、騙しなのかは確認されていない。

ARIA-Eとの関連性については、キャリアは元々、脳血管壁にアミロイドベータが蓄積する脳アミロイド血管症が発生しやすいので、薬で除去する時に周辺組織に損傷を与えやすいのではないか、という見解があるようだ。

第三相試験はJNJが北米でキャリアとノンキャリに一本ずつ、ファイザーが海外中心(日本の施設も参加)に同じく一本ずつ、ロンチした。月に一回、点滴静注で0.5mg、1mg、2mgの三種類をテストする予定だったが、2mgは海外の一部の国でARIA-Eを懸念する声があったことから打ち切った。キャリアを組入れた試験は初めから0.5mgしかテストしなかった。

北米キャリア試験がフェールしたことを受けて、ファイザーは海外キャリア試験の中間解析を急ぐ考えだ。もし中間解析で北米キャリア試験と同様に治療効果が無くARIA-Eが発生しているようならば、打ち切りになる公算があるだろう。北米ノンキャリア試験は今夏に結果が出る見込み。イーライリリーのsolanezumab(アミロイドベータの第11-20アミノ酸部位に結合する)はキャリアとノンキャリを区別せずに第三相試験を二本実施したが、ClinicalTrials.govの治験登録を見ると完了と記されているので、間もなく成否が明らかになるだろう。

エランは多発性硬化症の維持療法薬、Tysabri(natalizumab)をバイオジェン・アイデックと共同開発・販売している。バピの開発が失敗し株価が下がれば、バイオジェンが買収に動く可能性もありそうだ。コーポレート・レイダー(企業乗取屋)として有名なアイカーン氏が株式を取得して様々な揺さぶりを掛けているので、バイオジェンとしても株価上昇につながるアクションを取りたいところである。

リンク:ファイザーのプレスリリース

タルセバの肝細胞癌適応拡大試験がフェール

(2012年7月23日)

バイエルとアステラス製薬は、非小細胞性肺癌に承認されているEGFR阻害剤Tarceva(erlotinib、和名タルセバ)とバイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を併用した肝細胞癌第三相試験がフェールしたことを発表した。延命効果はNexavar単剤と変わらなかった。

Tarcevaは元々、OSI社がファイザーと提携して開発していたが、ファイザーが様々なEGFR阻害剤を開発していたワイスを買収したため提携解消となり、新たにロシュ・グループと提携した。アステラスがOSIに非友好的買収オファーを行った時にOSIは買収価格が低すぎると主張したが、その根拠の一つが今回の肝細胞癌適応拡大試験だった。

不思議なのは、今回のフェールについてアステラスと共同でプレスリリースを出したのがロシュではなくバイエルであることだ。ClinicalTrials.govの治験登録によると本試験のスポンサーはバイエルである。当初はNexavarの共同開発会社であるオニクス社やロシュ、ジェネンテック、OSIもコラボレーターとして名を連ねていたが、アステラスがOSIと買収で合意した後に、記載が消えた。どのような事情なのだろうか?

リンク:両社のプレスリリース

武田がAMG706の第三相試験に再チャレンジ

(2012年7月26日)

武田薬品はアムジェンのVEGF受容体阻害剤、AMG706(motesanib diphosphate)を共同開発していたが、第三相の非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療試験はフェールした。ところが、アジア人のサブセグメント分析で効果の兆しが見られたことから、アムジェンからグローバルな独占開発販売権を取得して、日本や香港、韓国、台湾で再び第三相試験に着手した。

フェールした試験は日本を含むグローバル試験で、paclitaxelとcarboplatinの併用療法と、AMG706も投与する三剤併用療法を比較した。当初は扁平上皮腫も組入れたが、中間解析で喀血リスクが見られたため、新規組入れや薬効解析からこのタイプを除外するプロトコル変更を行った上で再開した経緯がある。

結果は、全生存期間がメジアン13ヶ月、二剤併用群は11ヶ月、ハザードレシオ0.9で有意差が無かった。深刻な有害事象の発生率が49%と二剤併用の34%より高かったことも影響したかもしれない。

事前に設定されたアジア患者のサブセグメント分析は、ハザードレシオ0.75、95%信頼区間0.59-0.97というもので、数字は良い。しかし、サンプル数が287例と少なく、95%上限は1に近いので、偶然良い結果が出た可能性もありそうだ。

他のVEGF受容体阻害剤では同じような話は聞かないので、薬物動態的な理由があるのかもしれない。アジア人に有効と考える理由を知りたいものだ。

リンク:武田薬品の和文プレスリリース

【承認申請・承認】


アルミラルとフォレストが共同開発したCOPD維持療法用薬が米国で承認

(2012年7月23日)

米国のフォレスト社(NYSE: FRX)は、スペインのアルミラル(MC: ALM)から導入したTudorza(aclidinium bromide)がCOPDの維持療法用薬としてFDAに承認されたことを発表した。同種の薬では、ベーリンガー・インゲルハイムがファイザーと共同販売しているSpiriva(tiotropium、和名スピリーバ)が大成功している。

一日二回吸入なので一回だけのSpirivaより不便だが、吸入器に30日間分入っているので薬剤を一々詰めなくても良い。効果はSpirivaと大差ないように感じられる。MDIを好む患者には適しているかもしれないが、市場性は明らかではない。両社はベータ2作用剤や吸入用ステロイドとの合剤の開発に期待している模様だ。日本はキョーリンが開発販売権を持っている。

リンク:両社のプレスリリース

高純度EPA製剤が米国で承認

(2012年7月26日)

米国のアマリン(Nasdaq: AMRN)はVascepa(icosapent ethyl)が重度トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として承認されたことを発表した。96%以上の高純度EPA製剤で、GSKのLovazaと異なり、DHAは配合されていない。臨床試験ではTG値が偽薬比33%低下し、Lovazaと異なり、LDL-C値は上昇しなかった。臨床的転帰を改善する効果を確認するアウトカム試験は実施されていない。

アミリンは最適な販売体制を検討した上で、来年第1四半期に発売する予定。販売提携やコントラクト・セールスの起用、そして、会社を売却することも選択肢に含まれている。Lovazaが売れているので買収に手を上げる会社もありそうだ。Vascepaの価値はFDAが新化学物資(NCE)と認めるか否かによって変わってくるので、来月に結果が判明した後に買収交渉が本格化するのではないだろうか。

リンク:アミリンのプレスリリース

欧州でエーザイの抗癲癇薬とヴァーテックスの膿胞性繊維症治療薬が承認

(2012年7月27日)

エーザイはFycompa(perampanel)がEUで部分癲癇の治療薬として承認されたと発表した。AMPA阻害という画期的な作用期序を持つ。複数の抗癲癇薬を併用しても癲癇発作を十分に防げない、難治性患者に追加投与する。米国は10月に承認審査結果が判明する見込み。

リンク:エーザイのプレスリリース

米国のヴァーテックス(Nasdaq: VRTX)もEUでKalydeco(ivacaftor)が承認されたことを発表した。膿胞性繊維症の患者のうち、CFTR遺伝子にG551D多型を持つタイプに用いる。対象人口は米国で1200人、欧州は1000人と推定されている。先に米国で承認・発売されたが、患者が少ない分、価格が年29万ドルと高い。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

FDA諮問委員会が二種類の眼科用薬の承認を支持

(2012年7月26日、27日)

ロシュ・グループのジェネンテックは、7月26日に開催されたFDA諮問委員会で、Lucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)を糖尿病性黄班浮腫(DME)の治療に用いる適応拡大が支持されたことを発表した。既に浸出性加齢性黄班変性などに承認されているが、DMEの治療を受ける患者は米国だけで19万人と多いので、承認されれば売上拡大が見込まれる。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

スロンボジェニクス(Euronext Brussels: THR)は、症候性硝子体黄班癒着(VMA)の治療薬として承認申請したocriplasminが7月27日に開催されたFDA諮問委員会で支持されたことを発表した。VMAは硝子体内のゲルが黄班と癒着、穴(黄班孔)が開くこともある。患者数は推定50万人とのことだ。

ocriplasminは遺伝子組換え型ヒト・プラスミン。第三相試験では硝子体内に一回注射して28日後に治療効果を判定したところ、一本の試験は消散成功率27%、もう一本は25%で、注射する振りをして空気だけを吹き付けたシャム群の各13%と6%を有意に上回った。

米国外の開発販売権は、ノバルティス・グループのアルコンが持っている。

リンク:スロンボジェニクスのプレスリリース(pdfファイル)

エビリファイの長期作用性筋注用製剤は承認遅延

(2012年7月26日)

大塚製薬とルンドベックはFDAにAbilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の持効性筋注用新製剤を承認申請していたが、審査完了通知を受領した。この製剤は無菌凍結乾燥製剤を用時懸濁するが、溶解用注射用水の製造委託先で不備が指摘されたとのこと。他の指摘は無かったので、早晩、承認に漕ぎ着けそうだ。

Abilifyなどの非定型向精神薬は旧世代の薬と比べて忍容性がやや優れ、陰性症状に対する効果も持つ。薬を飲みたがらない患者に使う即効性あるいは持効性の注射用薬がラインアップされていないことが弱点だったが、後者については解消されつつある。市場性は経口剤より小さいが、Abilifyは数年後にGE化する見込みなので、ある程度のバッファーになるだろう。欧米でルンドベックと共同開発している。

リンク:両社のプレスリリース

今週は以上です。

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2012年7月15日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月15日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • バイエルが長期作用性第VIII因子の第三相出血予防試験を開始。
  • カテプシンK阻害剤の大規模第三相試験が中間解析で成功
  • セルジーンのPDE-4阻害剤は最初の第三相試験が成功
  • 第三のインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功
  • GSK/HGSのGLP-1作用剤の第三相試験が成功裏に完了
  • mGlu2/3受容体作動剤の最初の承認申請用試験がフェール
  • Halavenの転移性乳癌二次治療試験がフェール
  • GSKがテラバンスと共同開発したICS/LABAコンビ薬を承認申請
  • HGSが肺炭疽治療薬を再承認申請
  • GSKがタイケルブの適応拡大申請を米国で撤回
  • ヴォリブリスは特発性肺線維症には逆効果

【新薬開発】


バイエルが長期作用性第VIII因子の第三相出血予防試験を開始

(2012年7月8日)

血液凝固に係わる因子は臨床開発が活発だ。初の遺伝子組換え品や、作用を長期化して投与頻度を減らしたものなどだ。バイエルは、ポリエチレン・グリコールを結合して半減期を伸ばした長期作用性第VIII因子BAY94-9027の第三相試験入りを発表した。頻繁に出血するA型血友病患者を組入れて、出血時だけ治療する用法と、ルーチンに投与する予防用法を試験する。

同社のKogenateを用いて予防する場合は二日に一回、点滴するが、BAY94-9027の試験は最初の10週間は週二回点滴し、管理が良好な患者は5日毎投与群と7日毎投与群に無作為化割付して更に26週間試験する。

リンク:バイエルのプレスリリース

カテプシンK阻害剤の大規模第三相試験が中間解析で成功

(2012年7月11日)

MSD(米国メルク)は、MK-822(odanacatib)の骨粗鬆症性骨損壊予防試験が中間解析で成功したと発表した。安全性などを引き続き観察して、2013年上期に米欧日で承認申請する予定。

MK-822は、破骨細胞に多く分布するコラーゲン/ゼラチン分解酵素、カテプシンKを阻害して、骨吸収(カルシウムが血液中に移行する)を抑制する。骨粗鬆症の代表的な治療薬であるビスフォスフォン酸と異なり、骨吸収に係わる代理マーカーは低下するが骨形成代理マーカーには影響しない。骨の新陳代謝を妨げるのではなく、骨塩の減少だけを妨げるというイメージだ。

今回の試験は16000人以上の骨粗鬆症性骨折高リスク患者を。MK-822を週一回、経口投与する群と偽薬群に無作為化割付して、股関節骨折リスクを比較したもの。237例に達した段階で最終解析、その70%に到達した段階で中間薬効解析を行うプロトコルだったが、データ監視委員会が中間解析の薬効や有害事象プロファイルに基づいて治験成功を認定、打切りを勧告した。

この試験は両群ともカルシウムとビタミンDを投与したので単純な偽薬対照試験ではなく、過去のビスフォスフォン酸の試験と類似したデザインだが、ビスフォスフォン酸が普及した今日では、長期大規模な偽薬対照試験を行うことに批判もある。この試験は股関節骨折という発生率の低いイベントを主評価項目にしたので、沢山の患者を組入れざるを得なかった面もある。中間解析で打ち切られたのは、倫理面の配慮が影響した可能性もあるだろう。

安全性に係わる幾つかの点に関しては引き続きフォローアップするとのことだ。何が問題なのかは分からないが、考えられるのは、皮膚毒性、臓器影響、ホルモン影響だ。皮膚毒性は過去の治験でラッシュが見られた。これが理由で開発中止になった他社開発品もあるので、程度の差はあれ、クラス・イフェクトなのだろう。

カテプシンKは上皮細胞やマクロファージ(アテローム部位のマクロファージも含む)でも多く発現している模様なので、癌や心血管疾患が増えないか、長期間観察する必要がありそうだ。そう言えば、MK-822の前立腺癌・乳癌骨転移予防第三相試験は、治験登録後の早い段階で中止された。また、日本の試験で副甲状腺ホルモンの著増が見られた。

リンク:MSDのプレスリリース

セルジーンのPDE-4阻害剤は最初の第三相試験が成功

(2012年7月12日)

米国の新興製薬会社セルジーン(Nasdaq: CELG)は、経口PDE-4阻害剤CC-10004(apremilast)の一本目の第三相試験が成功したと発表した。乾癬性関節炎の患者に二種類の用量をテストしたところ、何れも症状スコアが有意に改善した。二本目の結果は第3四半期(7-9月)に判明する見込み。成功なら、2013年上期に米国で承認申請する予定。

乾癬でも第三相試験中で、年末から結果が出始め、好首尾なら2013年下期に承認申請する予定。欧州はこの段階で二つの適応症に申請する予定。更に、強直性脊椎炎も第三相試験中だ。

セルジーンは多発骨髄腫治療薬Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)など血液癌領域の薬で有名だが、もうそろそろ、売上に天井が見え始めた。CC-10004の三用途はバイオ薬が多く競合が激しいが、市場自体は大きく、経口剤の強みもあるので、成長の次の原動力として有望だ。

リンク:セルジーンのプレスリリース

第三のインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功

(2012年7月11日)

GSKとファイザーのHIV/AIDS治療薬合弁会社であるViiVと塩野義製薬の合弁会社、Shionogi-ViiV Healthcare LLCは、S/GSK1349572(dolutegravir、塩野義の開発コードS-349572)のHIV/AIDS治療第三相試験の成功を発表した。

抗ウイルス治療を初めて受ける患者に核酸系逆転写阻害剤二剤と併用したところ、非核酸系逆転写阻害剤と核酸系逆転写阻害剤二剤のコンビ薬であるギリアッド社のAtriplaと比べて、治療成功率が非劣性だった(88%対81%)。プロトコルに従ってシーケンシャルに優越性解析を行ったところ、有意な差があった。有害事象による治験離脱率が2%対10%で少なかったことが寄与した。

もう一本のナイーブ(初治療)試験ではMSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)と非劣性だった。一日二回ではなく一回の服用で済むので、利便性の点だけ上回ることになる。治療経験者の試験も二本進行中で、年内に結果が判明する見込み。

インテグラーゼ阻害剤はHIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられる過程を阻害する。他の抗HIV薬と比べて忍容性が優れることが長所だ。メカニズムが新しいので抵抗性ウイルスに感染している患者は少ないはずだ。dolutegravirはin vitroでraltegravir抵抗性ウイルスの多くに活性を示したことも注目される。尚、第二のインテグラーゼ阻害剤はギリアッドが日本たばこから導入して開発し米国などで承認申請した、elvitegravirだ。

リンク:Shionogi-ViiV Healthcareのプレスリリース

GSK/HGSのGLP-1作用剤の第三相試験が成功裏に完了

(2012年7月11日)

グラクソ・スミスクラインは、アルブミン融合rhGLP-1作用剤albiglutideの第三相試験が完了したと発表した。その一本である腎機能低下のある患者を組入れた試験でHbA1cがDPP-4阻害剤(MSDのJanuvia)より統計学的に有意に低下したことも明らかにされた。更に、心血管メタアナリシスもFDAの要件を充足した模様。CMC(化学、製造、管理)に関する承認申請書類の完成を待って2013年初めに承認申請する予定。

GLP-1は小腸ホルモンで、血糖値に応じてインスリン分泌を刺激し、グルコースの前駆体であるグルカゴンの異常分泌を抑制し、食物が胃から腸に移行するのを遅らせ、食欲を抑制するなど多彩な作用を持つ。天然のGLP-1はDPP-4によって直ぐに分解されてしまうので、薬として使うには工夫が必要だ。

アミリンのByettaやサノフィのlixisenatideはアメリカ毒トカゲの唾液から発見された成分の類縁体を化学合成したもの。ノボ ノルディスクのVictozaやGSKのalbiglutideはヒトGLP-1遺伝子を組替えてDPP-4結合部位を置換し、更に、Victozaは脂肪酸を結合することによってアルブミン結合能を高め、albiglutideはアルブミン自体を融合して、長期間体内に留まるようにした。アミリンのBydureonやサノフィのlixisenatideと同様に、週一回、皮注する。

Januvia対照試験は薬効が有意に優れていたが、差はそれほど大きくない。むしろ、GLP-1作用剤の弱点である悪心や嘔吐がそれほど増えなかったことに注目すべきだろう。Victoza対照優越性試験がフェールしたことから、GLP-1作用剤としての効果は先行品と大差なさそうだ。

albiglutideはヒューマン・ジノム・サイエンス(Nasdaq: HGSI)社がアルブミン融合技術を用いて開発したもの。同じ技術で開発されたアルブミン融合アルファ・インターフェロンは第三相試験で肺毒性が発覚し、開発中止になった。

GSKはHGSIと長い付合いがあり、全身性エリトマトーデス治療薬Benlystaを共同開発、2011年に発売に漕ぎ着けた。HGSはGSKの買収オファーを断ったが、HGSのパイプラインは決して多くないのでホワイト・ナイトが現れる可能性は低く、最終的には友好的買収が成立するのではないだろうか。

リンク:GSKのプレスリリース

mGlu2/3受容体作動剤の最初の承認申請用試験がフェール

(2012年7月11日)

イーライリリーは、mGlu2/3受容体作動剤LY2140023(pomaglumetad methionil)の最初の承認申請用試験がフェールしたことを明らかにした。統合失調症急性期の患者に40mgまたは80mgを一日二回投与した第二相試験で、症状スコアの改善が偽薬比有意ではなかった。risperidoneを投与した群は有意に改善したので、試験がフェールしたのではなく試験薬がフェールしたと考えざるを得ない。

当初の計画では第二相試験と第三相試験のデータに基づいて承認申請する計画だったようだが、今回のフェールを受けて、第三相試験の中間解析を行うことを決めた。もし効果が見られない場合、少なくとも単剤投与の開発は中止するのではないか。アジャンクト用途(既存の薬に追加する)の第二相試験も行われているので、直ぐには開発中止にならないだろう。

mGlu2/3作動剤はグルタミン酸の受容体を作動する新しい作用機序を持つ。ドーパミンやセレトニンの受容体に作用する既存の向精神薬とメカニズムが異なるため、十分に反応・忍容しない患者に追加・スイッチできるかもしれない。過去の第二相試験では効果が見劣りしたので、単剤投与よりも併用のほうが向いているかもしれない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース 

Halavenの転移性乳癌二次治療試験がフェール

(2012年7月9日)

エーザイのHalaven (eribulin mesylate)は、米国で2010年に、日欧でも2011年に、転移性乳癌の三次治療薬として承認・発売された。臨床試験では、治験医が選んだ他の抗癌剤と比べて生存期間が有意に長かった。二次治療試験も行われたが、今回、フェールしたことが公表された。尤も、エーザイは承認取得を諦めてはいない様子だ。

この二次治療試験は、転移性乳癌でアントラサイクリンとタクサン系抗癌剤による治療を既に受け、最後の薬に反応しなかった患者を、Halaven群とcapecitabine(ロシュ/中外製薬のゼローダ)群に無作為化割付して、全生存期間及び無増悪生存期間を比較したもの。capecitabineはレーベル通りの用量が採用されたが、一般的には、もっと少ないほうが良いと言われている。

全生存期間も無増悪生存期間も事前に設定したハードルをクリアできなかった。前者はHalavenが上回るトレンドが見られたが、後者は差が無かった。エーザイは、副次的評価項目やサブグループの解析を進めた上で、承認申請の可能性について承認審査機関と相談する考えだ。

二つの主評価項目が設定された試験は、多重性を回避するために、アルファを分けるか、順位を設けるかする必要がある。前者は、例えば、全生存期間の解析のp値の要求水準を0.039にして無増悪生存期間は0.011とする。結果が0.04であった場合はフェールとなる。後者は、全生存期間の解析が成功した場合だけ無増悪生存期間の解析に進む。全生存解析がフェールしたら、無増悪生存解析が成功しても成功とは呼べない。

プレスリリースの書き振りからすると、おそらく、Halavenの試験はアルファを分ける方法が採用され、p値はそれより高かったが、通常の有意性判定基準である0.05は下回ったのではないだろうか。

承認審査上の問題は、優越性の解析はフェールしたが延命効果のトレンドがあったことをもって、capecitabineと同程度の効果があると認定することが出来るかどうかだ。通常、非劣性試験は優越性試験よりも厳格に計画、実施する必要があり、今回の試験で非劣性解析が成功したとしても、効果を認定することは出来ないだろう。

承認審査機関は、今回の試験のデータ(ハザードレシオやp値、サブセグメント分析)や三次治療試験の成績を総合的に考えて、承認に値するかどうかを判断することになるだろう。日米欧の三極で見解が分かれる可能性がある。私の予想は、日本は承認、欧州は非承認、米国は諮問委員会で過半数が支持もFDAは承認せず、というシナリオだ。

リンク:エーザイの英文プレスリリース

エーザイの和文プレスリリース

【承認申請・承認】


GSKがテラバンスと共同開発したICS/LABAコンビ薬を承認申請

(2012年7月13日)

グラクソ・スミスクラインは、米国の新興企業であるテラバンス(Nasdaq: THRX)と共同開発したコンビ薬をCOPD/喘息症向けに欧米で承認申請した。吸入用ステロイド(ICS)のfluticasone furoateと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)vilanterolを配合しており、GSKのAdvair(和名アドエア)の次世代品という位置付けだ。

Advairとの違いは、LABAは新規活性成分、ICSは新しい塩が用いられていること。第二は、一日二回ではなく一回吸入するだけで足りること。第三に、Elliptaという名の新しいドライ・パウダー・インヘイラーを用いていること。薬効は大差なさそうだ。喘息症の用量は100/25mcgと200/25mcgの二種類、COPDは100/25mcgのみ。

申請内容はEUと米国で異なる。EUはRelvarという製品名で喘息症とCOPDの両方に申請した。COPDに関しては増悪歴を持つ一秒量が予測値の70%未満の患者の症状を治療する薬という位置付けだ。米国はBreo名で、COPDだけに、慢性気管支炎や肺気腫のような気道閉塞を伴うCOPD患者の増悪を削減するための長期維持療法として申請した。

米国で喘息症の承認申請が遅れたのは、FDAがLABAの安全性に懸念を持っているからだろう。COPDの適応・効能が若干違うのは、疾患や治療の意義に関する認識が違うからだろうが、治験成績に対する評価が異なるのかもしれない。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース 

HGSが肺炭疽治療薬を再承認申請

(2012年7月10日)

HGSは炭疽菌の抗原に結合する抗体医薬ABthrax(raxibacumab)を開発し、米国政府の戦略的国家備蓄向けに納入しているが、FDAの承認は未だ取っていない。2009年の審査完了通知に対する回答を提出したところ、FDAがほぼ完全な回答として受理し、12月15日を審査期限と定めた。

肺炭疽は症例数が少なく、致死性も高いため、臨床試験を行うのは困難だ。FDAはヒト以外の霊長類の試験を薬効のエビデンスにすることを認めており、これまでにフルオロキノロン系の抗生物質が承認された。ABthraxの標的であるBAPAは炭疽菌が放出する毒素の一つで、受容体に結合して他の毒素の侵入を手助けする。前臨床試験の成績は素晴らしく、感染・発症や感染後の死亡率を大きく改善した。

国家備蓄があれば戦争中の軍人やテロにあった民間人を救うことができるが、正式に承認されれば化学兵器と無関係な感染の治療を行うことも出来るようになる。

リンク:HGS社のプレスリリース

GSKがタイケルブの適応拡大申請を米国で撤回

(2012年7月12日)

Tykerb(lapatinib、和名タイケルブ)はher2陽性転移性乳癌の一部に承認されている。今年2月に、同じher2標的薬であるロシュのHerceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)による前治療を受けた患者に両剤を併用する用法が欧米で承認申請されたが、米国は撤回となった。FDAの質問事項に回答できないため、他の試験の結果が出るまで待つ。

詳細は明らかではないが、治験のデザインが適応と一致していないのかもしれない。承認申請時のリリースによると、EUの適応はHerceptin前治療に進行した抵抗性患者だが、米国は単にHerceptin前治療を受けた患者となっている。おそらく、FDAは前治療時の進行判定の信憑性を問うて、抵抗性患者と断定することを認めなかったのだろう。例えば、Herceptinとタクサン系の抗癌剤の併用に反応しなかったようなケースである。

また、この用途用法を試験した臨床試験の一つでは、併用をTykerb単剤と比較していた。これではTykerbではなくHerceptinの適応拡大試験である。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ヴォリブリスは特発性肺線維症には逆効果

(2012年7月9日)

選択的エンドテリンA阻害剤のLetairis(ambrisentan、和名ヴォリブリス)は肺動脈性肺高血圧症の治療薬で、ギリアッド(Nasdaq: GILD)が開発し、米国以外の一部の国ではGSKが販売している。特発性肺線維症の適応拡大アウトカム試験が実施されたが、意外なことに、進行・死亡した患者が27%と偽薬群の17%を上回ったことから打ち切りになった。肺機能低下も見られたので、大きな失敗だ。

難病の治療では、他の用途に承認されている薬を流用することがしばしばある。Letairisもオフレーベル使用されていた模様であり、今回、カナダの厚生省が注意喚起した。GSKがドクターレターを発出した由である。

リンク:ヘルスカナダの注意喚起

今週は以上です。

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2012年7月8日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月8日号


【ニュース・ヘッドライン】


GSKが未承認用途販促問題などに関連して30億ドルの和解を結びました。米国では中枢神経系の医学者が製薬会社主催のセミナーで新しい用途での使用経験を披露することが珍しくありませんが、製薬会社が報酬を払った医学者の名前や金額を公表する事例も出てきたので、下火になりそうです。


  • GSKらのLAMA/LABAコンビ薬のCOPD第三相試験が成功
  • アービタックスの胃がん試験がフェール
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが多剤耐性結核の新薬を承認申請、ベルケイドの欧州適応拡大申請を撤回
  • GSKが未承認用途販促問題や治験データ秘匿問題で米国司法省と和解

【新薬開発】


GSKらのLAMA/LABAコンビ薬のCOPD第三相試験が成功
(2012年7月2日)

グラクソ・スミスクライン(GSK)と米国の新興企業テラバンス(Nasdaq:THRX)は、共同開発している長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)GSK573719A(umeclidinium)と、長期作用性ベータ2作用剤(LABA)GW642444(vilanterol)を配合したコンビ薬のCOPD第三相試験が成功したことを発表した。2012年末に世界で承認申請を開始する予定。LAMA単剤も2013年に申請予定。

LAMAではベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)が2011年度売上高31億ユーロと大成功している。ノバルティスも日本のそーせい社からライセンスしたglycopyrronium bromide(INN)をSeebri Breezhalerとして欧州で承認申請、今秋までに承認される見込みだ。Spirivaは特許切れを控えているので、新薬は何らかのセールスポイントが必要である。

今回のデータはコンビ薬を単剤や偽薬と比較したものなので、umeclidiniumとSpirivaのどちらが優れているのかは分からない。前者は一日一回投与なので便利だが、Spirivaも一日二回ではなく一回投与の第三相試験が進行中だ。

コンビ薬と単剤を比較したデータも釈然としない。主評価項目(trough FEV1(毎日の服用の前に計測した一秒量)が試験開始前と比べてどれだけ改善したか)の差が意外に小さいのだ。尤も、公表されたデータはごく一部であり、全体像が学会発表されるまで何とも言えないだろう。

COPD維持療法薬で最も重要なのは増悪リスクを削減する効果であり、服用前一秒量改善は代理マーカーに過ぎない。SpirivaとLABAの併用法と比べて増悪をどの程度防ぐかが重要だが、巨大な試験を行わなければならないので、実施されるとしても開始は市販後、結果が出るのは何年も先になるだろう。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース

アービタックスの胃がん試験がフェール
(2012年7月5日)

ドイツのメルクKGaAは、Erbitux(cetuximab、和名アービタックス)の末期胃がん一次治療三剤併用試験がフェールしたと発表した。日本を含む25ヶ国で904人を組入れて無増悪進行期間を標準療法(capecitabineとcisplatinの二剤併用)と比較したが、Erbituxを追加しても効果はなかった。

ErbituxはEGFRに結合するキメラ抗体医薬でこれまでに転移性結腸直腸癌や局所進行性又は転移性の頭頚部癌に承認されているが、前者は承認後の試験でKRASというシグナル伝達物質に変異のあるタイプには効かないことが判明した。EGFRをブロックするとKRASなどの川下のシグナル伝達物質の活性化を防ぐことができるが、変異KRASは川上からの刺激が無くても川下にシグナルを発するので、意味が無いのである。

今回の試験は対象をEGFR陽性癌に限定してはいなかったようだ。陽性癌なら効果があるのか、サブセグメント分析が注目される。Avastin(bevacizumab)の第三相試験は日本や韓国の対照群の成績が予想以上に良かったためにフェールした。Erbituxの試験でも同じだったとしたら、今後は、日韓とそれ以外の国で別々に試験したほうが良いかもしれない。

尚、Erbituxは米国で販売されているものとEUで販売されているもので暴露が異なるようだ。米国の販売権を持つBMSと開発者に当るイーライリリーが7月6日に出したプレスリリースによると、米国用は暴露が22%大きい。他の抗体医薬でも開発中に生産プロセスを変えたら力価が変わったという話を聞くことがある。バイオ薬の良く分からないところだ。

リンク:メルクKGaAのプレスリリース
リンク:イーライリリー/BMSのプレスリリース(米国で結腸直腸癌一次治療FOLFIRI併用が承認されたことに関するもの)

【承認申請・承認】


ジョンソン・エンド・ジョンソンが多剤耐性結核の新薬を承認申請、ベルケイドの欧州適応拡大を撤回
(各2012年7月2日と3日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはTMC207(bedaquiline)を多剤耐性結核(MDR-TB)の治療薬として米国で承認申請した。承認されれば結核に対する40年振りの新薬となる。MDR-TBは米国では年百十数人が発症する稀な疾患だが、世界では年間に15万人が死亡するとのことだ。自国では承認審査を行わずに、米国、EU、スイス、日本の何れかで承認された薬は原則的に販売を許可するという国は多いので、米国で申請する意味はある。

薬効のエビデンスは第二相併用試験だけである模様だ。年内に第三相試験を開始する予定。WHOが現在推奨している治療法は18-24ヶ月掛かるのに対して、この第三相試験では7剤併用9ヶ月コースをテストする由。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンは武田薬品のVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)の米国外での開発販売権を持つ。EUで再発性濾胞性非ホジキンリンパ腫にRituxan(rituximab)と併用する適応拡大申請を行っていたが、撤回した。この申請の直後に武田も米国の適応拡大申請を撤回している。治験が成功したとはいえ効果が小さいことが障害になったのではないだろうか。

臨床成績は2010年のASHで発表されている。Rituxanだけを投与する群とVelcadeを併用する群の無増悪生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.82、p=0.039と統計的に有意な差があったが、メジアン値は11.0ヶ月が12.8ヶ月に1ヶ月強延びるに過ぎない。

そもそも、p値は十分に低くは無い。一般に、薬効確認試験一本だけで承認を取るためには、二本の試験のp値が共に0.05未満になる確率、即ち、0.0025未満であることが求められる。また、両群のデータの95%信頼区間はオーバーラップしている。

血液癌は有効な薬が少ないため承認のハードルが引き下げられることが多い。米国とEUは匙加減が異なるため、片方だけで承認されることも珍しくないが、今回は審査機関の評価が一致したようだ。

リンク:EUのプレスリリース
リンク:学会発表時のジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【製薬会社の動き】


GSKが未承認用途販促問題や治験データ秘匿問題で米国司法省と和解
(2012年7月2日)

米国司法省とグラクソ・スミスクライン(GSK)は、未承認用途販促や治験データ秘匿に関する問題で和解に達した。罰金と民事和解金を合わせて30億ドル払う。ロイターによると、ファイザー(23億ドル)、イーライリリー(14.2億ドル)、MSD(6.5億ドル)、BMS(5.1億ドル)、セファロン(4.25億ドル)などの前例を上回る、薬品業界で過去最高の金額とのことだ。

罰金の対象になったのは、まず、Paxil(paroxetine)を青少年鬱病患者向けに売り込むためにフェールした試験を恰も効果があったかのように論文刊行したり、フェールした他の二本の試験のデータを隠したりしたこと。Wellbutrin(bupropion)に関しては1999年から2003年に掛けて体重管理や性的不全、ADHDなどの未承認用途向けに販促した。Avandia(rosiglitazone)は市販後安全性データのFDA提出義務を怠った。

民事和解に関しては、他の製品も含めて未承認用途販促や医師に対するキックバック、メディケイド(貧困者向け医療制度)に対する虚偽価格報告などが対象になったようだ。

GSKは5年間の経営風土改善計画を実施する。一足早く2011年に、営業員の成果報酬を担当地域での売上高ではなくサービスの質に基づいて決定する方法を導入した。

製薬会社は様々な民事、刑事訴訟の対象になっているが、原告側の切り札になっているのが内部告発だ。政府に対する不正行為を告発した人は和解金の一定割合を獲得することが出来る。今回の和解でも複数の内部告発者が報奨金を得る模様だ。

リンク:米国司法省のプレスリリース
リンク:GSKのプレスリリース
リンク:薬品業界の高額和解金・罰金(ロイター)

今週は以上です。

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2012年7月1日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田薬品の経口プロテアソーム阻害剤が第三相入り
  • ギリアッドが二種類の抗HIV薬を承認申請
  • アステラス製薬がMDV3100を、ジョンソン・エンド・ジョンソンがcanagliflozinを、EUで承認申請
  • バイエルのregorafenibが優先審査指定
  • アリーナ/エーザイの体重管理薬が遂に承認された
  • アステラス製薬のベタニスが米国でも承認
  • AMAG/武田の静注用鉄製剤がEUで承認
  • FDAはapixabanの承認も見送り
  • BMSがアミリンと買収で合意、アストラゼネカも相乗り
  • SU剤は死亡リスクを高める?
  • ゾフランの用量変更

【新薬開発】


武田薬品の経口プロテアソーム阻害剤が第三相入り
(2012年6月29日)

武田薬品が買収したミレニアム・ファーマシューティカルズは、プロテアソーム阻害剤Velcade(bortezomib)を多発骨髄腫の標準療法の一つに育てたことで有名だ。Velcadeは点滴用だが、先日、皮注用薬も承認された。第三弾が経口プロテアソーム阻害剤のMLN9708(ixazomib)で、第三相入りしたことが発表された。

ClinicalTrials.govの治験登録によると、再発性・難治性の多発骨髄腫で一次から三次までの治療歴を持つ患者を、Revlimid(lenalidomide、和名レブリミド)と低量dexamethasoneを併用する群と更にMLN9708を三剤併用する群に無作為化割付し、二重盲検で無増悪生存期間を比較する。MLN9708は28日サイクルで第1、8、15日に経口投与する。2014年6月に解析のためのデータ収集を行う予定。

組入れ・除外条件で特徴的なのは全員にアスピリン(325mg)を投与すること。Revlimidは血栓リスクがあるのでアスピリンで予防する手法が広く採用されているが、MLN9708も血栓リスクがありそうだ。一方で、血小板減少症も見られるので、痛し痒しである。薬物相互作用関連ではCYP1A2強阻害作用やCYP3A強阻害・誘導作用を持つ薬の同時使用が禁じられている。

リンク:ミレニアム社のプレスリリース

リンク:武田薬品のプレスリリース(和文)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録

【承認申請・承認】



ギリアッドが二種類の抗HIV薬を承認申請
(2012年6月27日、28日)

抗HIV薬で世界一の売上高を誇る米国のギリアッド社(Nasdaq: GILD)は、日本たばこからライセンスしたインテグレーズ阻害剤elvitegravirと、3A4インヒビターcobicistatを、夫々27日と28日に米国で承認申請した。この二つの活性成分は昨年10月に承認申請された四剤コンビ薬、Quadの配合成分でもあるが、単剤が承認されれば他の薬と組み合わせることが可能になる。

インテグレーズ阻害剤の第一号はMSDが米国で07年に発売したIsentress(raltegravir)だ。elvitegravirは抗HIV作用、交叉耐性、忍容性の何れも大差ないが、3A4インヒビターを併用すると代謝が遅れ作用が長持ちするので服用回数が一日一回ですむ(Isentressは二回)。一方、cobicistatは、現在はアボットのritonavirが独占している3A4インヒビター市場に参入する。ritonavirは特許切れが近いので、ギリアッドはジョンソン・エンド・ジョンソンやBMSと提携して、夫々の会社の薬とのコンビ薬で差別化を図る構え。

リンク:ギリアッドのプレスリリース(elvitegravir)

リンク:同 (cobicistat)

アステラス製薬がMDV3100を、ジョンソン・エンド・ジョンソンがcanagliflozinを、EUで承認申請
(2012年6月26日)

米国のメディベーション(Nasdaq; MDVN)とアステラス製薬は、アステラスが欧州でMDV3100(enzalutamide)を転移性去勢抵抗性前立腺癌の二次化学療法として承認申請したことを発表した。同薬は経口アンドロゲン受容体阻害剤でホルモン療法薬と似ているが、受容体のシグナル伝達を多様に阻害するためか、ホルモン療法に反応しない(去勢抵抗性)患者にも効果がある。

同日に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがSGLT2阻害剤canagliflozinをEUで二型糖尿病治療薬として承認申請したことを発表した。同種の薬ではBMS/アストラゼネカのdapagliflozinが4月にEUのCHMPから肯定的評価を受けており、canagliflozinは第二号となる見込み。

両薬とも、米国では5月に承認申請されている。

リンク:メディベーション/アステラス製薬のプレスリリース

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

バイエルのregorafenibが優先審査指定
(2012年6月28日)

バイエルが米国で転移性結腸癌用薬として承認申請したVEGF受容体拮抗剤、regorafenibが優先審査指定された。順調なら10月にも承認されることになる。

リンク:バイエルのプレスリリース

アリーナ/エーザイの体重管理薬が遂に承認された
(2012年6月27日)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ARNA)とエーザイは、体重管理薬Belviq(lorcaserin Hydrochloride)がFDAに承認されたことを発表した。FDAや麻薬管理局の依存性審査・スケジュール指定を受けた後に発売する予定。米国の体重管理薬市場は熱しやすく冷めやすいので、ロシュが13年前にXenical(orlistat)を発売した時と同様に、初めは売れるだろうが直ぐに天井に達するだろう。承認審査中の他社の薬のほうが効果が高いので、こちらの審査結果も注目される。

一日一回、経口投与した2年間の臨床試験では、一年目に体重が平均で約9kg低下した(偽薬群は4kg)。二年目は3kgのリバウンドが見られたが、偽薬群でも1kgのリバウンドがあり、二年目に偽薬にスイッチした群は5kgリバウンドしたので、服用を続けたほうがよさそうだ。最初の12週間で体重が5%以上低下しなかった患者は続けても意味のある減量は期待できないので中止する。主な有害事象は頭痛、めまい、疲労、悪心、ドライマウス、便秘などで、糖尿病患者では低血糖も見られた。

ダイエット薬は過去に副作用渦が数多く発生しており、90年代にはfenfluramineが心弁変形や肺高血圧症の懸念から米国で販売中止になった。近年も、09年にsibutramineが心血管アウトカム試験で懸念が浮上したため欧州で承認取消、米国でも禁忌強化となった。

Belviqはメーカー側が大規模な第三相試験を行って心臓安全性を検証したが、FDAや諮問委員会が慎重であったために、申請から承認まで2年半かかった。脳のセロトニン受容体である5-HT2cを作動して食欲を抑制する作用機序だが、選択性が低いとはいえもし5-HT2b受容体も作動するとfenfluramineと同じような有害事象が発生する恐れがあるからだ。

今回の承認は、副作用懸念の小さい薬の開発に情熱を燃やしたメーカー側と、それを後押しする一方で承認審査に関しては妥協しなかった承認審査機関の努力の結晶と言えるだろう。尚、麻薬指定されている薬はモルヒネ系鎮痛剤を初めとして少なくなく、Belviqと同じ中枢神経系の体重管理薬や睡眠薬も麻薬指定されている。スケジュールIVなら規制が緩く、過去には世界年商が10億ドルを超えた薬もある。

ところで、sibutramineは日本では09年に第一部会を通過したため、私は、心血管アウトカム試験の結果がもうすぐ発表されることを知らないのだろうかと危ぶんだ。薬事分科会で継続審議となったためギリギリ助かったが、もし順調に承認されていたら、発売直後に医師や患者が副作用渦に巻き込まれるところだった。ドラッグラグの解消は重要だが、路面状態が悪い時までスピードを出すのは禁物である。

リンク:FDAのリリース

リンク:アリーナとエーザイのプレスリリース(英文)

リンク:アリーナとエーザイのプレスリリース(和文)

アステラス製薬のベタニスが米国でも承認
(2012年6月28日)

アステラス製薬といえば排尿障害治療薬の世界的なベストセラーとなったtamsulosinや、過活動膀胱治療薬solifenacin(和名ベシケア)をラインアップする泌尿器科の雄だ。新規作用機序を持つmirabegronの開発にも成功、日本で2011年9月にベタニスとして発売した。海外は承認審査機関が心臓安全性などの確認を求めたため承認申請が遅れたが、遂に米国でMyrbetriqという製品名で承認された。

一日一回服用の経口剤で、用量は25mgで開始、50mgまで増量可。第三相試験では100mgも試験したが、承認されていない。主な有害事象は鼻咽頭炎、便秘、疲労、頻脈、腹痛など。管理不良の重度高血圧症や末期腎臓疾患、重度の肝機能障害を持つ患者には用いるべきではない。

過活動膀胱は排尿切迫感や失禁を伴う高齢女性には珍しくない疾患で、米国の患者数は3300万人と推定されている。骨盤底筋体操などが第一選択。薬物療法の効果はそれほど大きくないので、作用機序の異なる薬の併用が注目される。tamsulosinで排尿を改善し膀胱を空にして、solifenacinで不随意な膀胱収縮を抑え、mirabegronで膀胱の貯尿能力を高めれば、シナジーを生めるかもしれない。

リンク:FDAのリリース

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

AMAG/武田の静注用鉄製剤がEUで承認
(2012年6月22日)

米国のAMAG Pharmaceuticalsと武田薬品は、前者が開発した鉄欠乏性貧血治療薬Rienso(ferumoxytol、米国名Feraheme)がEUで承認されたことを発表した。慢性腎疾患の患者は貧血症を合併しやすいが、鉄欠乏が原因である場合は鉄を補充し、そうでない場合はエリスロポイエチンを用いる。

リンク:AMAGのプレスリリース

FDAはapixabanの承認も見送り
(2012年6月25日)

Xa阻害剤Eliquis(apixaban)を共同開発しているBMSとファイザーは、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。非弁膜性心房細動の患者の脳卒中リスクを削減する用途で承認申請し、優先審査指定を受けたが、審査期間が延長された挙句に承認見送りという失望的な結果になった。第三相試験のデータの管理・検証に関する情報が不十分と見做された模様だ。

FDAの心血管疾患チームのリーダーは、グローバル大規模アウトカム試験の実施方法に不満を持っている様子であり、これまでも様々な新薬についてエビデンスの欠陥を指摘している。主評価項目該当例の報告漏れ、追跡打切り例の多さ、などである。標準医療が進歩した結果、小さな治療効果しか生めない新薬が増えたため、治験を厳格、正確に行って誤差を小さくしなければならないという問題意識だ。

Xa阻害剤ではジョンソン・エンド・ジョンソンがバイエルから導入して承認申請したrivaroxabanも承認見送りとなった。

こういう事は後から言われてもどうにもならない。多くは研究者主導試験なので、FDAのメッセージが治験実施委員会に伝わるとは限らない。産学官のワークショップを開催してコンセンサスを作ることが望まれる。

リンク:BMSとファイザーのプレスリリース

【製薬会社の動き】


BMSがアミリンと買収で合意、アストラゼネカも相乗り
(2012年6月29日)

米国の糖尿病薬メーカーであるアミリンは、BMSから買収オファーを受けたが断ったと3月に報じられて株価が急反発した。水面下で誰がどのような交渉を進めているのか注目されていたが、結局、BMSが糖尿病領域で提携関係にあるアストラゼネカと手を組んで買収することで三社合意した。

買収価格は一株当り31ドル、総額では53億ドルで、日本で言えば塩野義製薬や協和発酵キリンの時価総額に匹敵する。アミリンの負債やかってのパートナーであるイーライリリーに払うべき契約上の債務を含めると70億ドルに達する。

株価が下落した新興企業の買収価格は、過去の最高値から最安値の下落幅の半値戻しで決着することが多いが、アミリンはその水準(28ドル)を1割上回った。因みに、アミリンは、これまでに数々の企業の株式を取得し高値で身売りさせることに成功したアイカーン氏の投資先の一つである。

同社は膵臓のベータ細胞が分泌するアミリンというホルモンに注目し、2005年に合成アミリン製剤のSymlinを一型、二型糖尿病の治療薬として米国で発売。同年には、小腸ホルモンのGLP-1に類似した化合物も二型糖尿病薬Byetta(exenatide、和名バイエッタ)として発売した。

Byettaはインスリンの分泌を刺激するが血糖値依存的に作用するので低血糖症リスクが比較的小さい。一部の患者で大きな体重減少が見られることと合わせて、インスリンとは対照的である。このため、管理不良でインスリンなどの追加投与が必要な患者の選択肢の一つとなった。一日二回皮注であることが難点だったが、2011年から12年に掛けて欧米で週一回皮注用製剤のBydureonが承認され、展望が開けた。

同社はByettaとBydureonの開発販売でイーライリリーと提携していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと糖尿病領域で広範な提携を結んだことを契機に、米国は2011年11月、海外は2013年末までに提携解消することが決まった。このため、BMS/アストラゼネカはアミリン製品の利益を他社とシェアする必要がなくなる。

BMSがアミリンを買収した後、アストラゼネカが34億ドルを払ってアミリン事業に参加、利益を折半する。額から判断するとBMSが主導権を握るのだろうが、1.35億ドル払えば戦略的・財務的な決定権を対等に引き上げることができる。

アストラゼネカはアベンティスからスピンアウトしたNovexelを09年に買収したことがあるが、米国のフォレストが買収額の半分に当る額を払い、二社のパイプラインやテリトリーを山分けするような格好になった。今回は二度目の相乗りだ。新薬の開発費用や承認のハードルが上がったのは糖尿病薬や抗生剤だけではない。買収費用や新薬開発費用が膨らんで利益を圧縮するのを防ぎ、開発リスクを他社とシェアする手段として、今後も相乗りが増えるだろう。

リンク:BMS、アミリン、アストラゼネカのプレスリリース

【医薬品の安全性】


SU剤は死亡リスクを高める?
(2012年6月24日)

SU剤はかっては二型糖尿病の第一選択薬、今でも第二選択薬として広く用いられているが、心血管疾患のリスクを高めるのではないかという懸念が繰り返し浮上している。MedPage Todayによると、ENDO2012(内分泌学の学会)で、また、リスクを示唆する疫学試験の結果が発表された。

米国オハイオ州の研究者が行った後顧的コフォート研究で、1998年10月24日から2006年10月12日までの期間にSU剤またはmetforminの服用を開始した23,915人の電子医療記録を分析したところ、全原因死亡のハザードレシオがglipizide服用患者は1.64、glyburideは1.59、glimeprideは1.68と何れもmetforminより有意に高かった。冠動脈疾患歴を持つ2,721人ではglipizide(1.38)とglyburide(1.41)だけが有意に高かった。

疫学試験の弱点は、患者背景の違いが生じてしまうことだ。この試験はモノセラピーの患者だけを対象にしたが、SU剤とmetforminは禁忌が異なるので、患者背景が違っていても不思議はない。疫学試験では様々な手法を用いて違いを「修正」するが、それが正しいという保証はない。この試験も注意が必要だが、それにしても、ハザードリスクの高さは気にかかる。

SU剤の米国のレーベルには、UGDP試験で心血管疾患死のリスクが食事療法だけの群や食事療法とインスリン治療だけの群より高かったことが記されている。その後に行われたUKPDS試験やADVANCE試験ではリスクが見られなかったが、UKPDSは早期段階の患者が対象で、また、今日の試験と比べて症例数が少ないため、検出できなかったのかもしれない。

また、ADVANCE試験はSU剤を用いて集中的血糖治療を施行した群でも平均HbA1c値の低下スピードが穏やかだった。一気に治療目標を達成したというよりは患者の様子を見ながら時間を掛けて少しずつ引き下げた印象である。SU剤に心血管疾患リスクがあるとしたら低血糖が原因ではないかと言われているが、もしそうならば、ADVANCE方式のほうが治療目標達成に向けて邁進する治療ガイドラインお勧めの方法よりも好ましいのかもしれない。

それにしても、UGDP試験の論文が医学誌に刊行されてから40年以上経つのに、未だに結論が出ていないのは残念である。

リンク:MedPage Todayの記事

ゾフランの用法変更

FDAは、Zofran(ondansetron、和名ゾフラン)の初回推奨投与量を引き下げることを発表した。開発者であるグラクソ・スミスクラインがレーベルを変更する。徹底QT延長試験で懸念が確認されたことが背景のようだ。

抗癌剤は吐き気を伴うものが少なくない。重い悪心嘔吐を誘導する薬を用いる場合は、Zofranのような5-HT3受容体拮抗剤を用いて予防・緩和する。Zofranの場合、初回は抗癌剤投与前に32mgを一回、又は、患者の体重に0.15mgを掛けた量を投与前と投与後に三回、点滴静注する二種類の用量・用法が承認されていた。

ところが、徹底QT試験で8mgから32mgまでの量を試験したところ、32mg群はQTcが平均20ミリ秒増加した。8mgも平均6ミリ秒増加した。心電図上の不整脈であるQT延長は心室不整脈、そして突然死と関連しており、20ミリ秒以上延びる薬は懸念が大きい。このため、32mgを一回投与する用法は撤回し、0.15mg/kgを三回投与する場合も一度に16mgを超えて投与すべきではない、という警告が追加された。

尚、日本では一回4mg、一日二回までしか承認されていない。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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