2012年5月20日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月20日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • アムジェンの抗体医薬が前駆B白血病に好成績
  • クリゾチニブが小児リンパ腫の一部に著効
  • safinamideの第三相試験結果
  • カナダで治療用幹細胞が世界で初めて承認
  • FDAもジレニア/イムセラの警告を強化
  • CDC:5月19日は肝炎検査の日

新薬開発


アムジェンの抗体医薬が前駆B白血病に好成績

ASCO(米国臨床腫瘍学会)の抄録が一般公開され、各社が主要な演題、内容を公表した。注目されるのは、まず、アムジェンのAMG 103(blinatumomab)の第二相試験だ。

再発性、難治性の成人前駆B急性リンパ性白血病を罹患する36人を組入れた試験で、72%が完全反応した。投与制限的毒性は中枢神経性症状とサイトカイン放出症候群。致死的な真菌感染症も発生した。主な有害事象は発熱、頭痛、震戦、疲労など。

blinatumomabは今年1月に買収したマイクロメットが開発した二相性抗体で、可変領域の一つが前駆B細胞のCD19に結合し、もう一つがT細胞のCD3に結合して、癌化したB細胞をT細胞に攻撃させる。

T細胞を増強するのでサイトカイン放出症候群の発生はありそうなことだ。震戦は良く分からない。

異なった抗体の抗原結合部位を組み合わせる手法はリジェンロン(NASDAQ: REGN)も加齢性黄班変性治療薬Eylea(aflibercept)として実用化に成功した。抗体に細胞毒を結合して「トロイの木馬」方式で癌細胞を攻撃する新薬も発売された。

抗体医薬の開発は新しいステージに入った。

リンク: アムジェンのプレスリリース

クリゾチニブが小児リンパ腫の一部に著効

ASCOが開催した事前プレス・ブリーフィング(記者発表会)で、ファイザーのALK陽性非小細胞性肺癌用薬であるXalkori(crizotinib)の用途探索的試験の結果が発表されたようだ。複数のメディアが報じている。

この第一相試験はALK融合蛋白(染色体転座が起きてALK遺伝子の一部が他の遺伝子と結合すると発生する)を持つ固形癌又は未分化大細胞リンパ腫(ALCL)の子供を対象としたもの。ALCLの患者8人のうち、7人が完全反応した。

用量制限的毒性はめまい、腫瘍内出血、肝機能検査値異常など。ブレス・ブリーフィングで発表した研究者は第三相試験を計画しているようだ。

XalkoriはALKを阻害する小分子薬で2011年にALK融合蛋白陽性非小細胞性肺癌向けに日米で承認申請され、米国で承認された。ALKは未分化リンパ腫キナーゼの略であり、もしALCLに著効があるとしたら、命名が正しかった稀有な例だ。

リンク:MedPage Todayの記事 (事前登録要)
ASCO 2012の抄録(抄録番号9500、Yael P. Mosseら・・・おそらく事前登録要)

safinamideの第三相試験結果

イタリアの新興企業ニューロン・ファーマシューティカルズ社(SIX NWRN)はsafinamideのパーキンソン病治療第三相試験の結果を発表した。と言っても、これまでに実施された第二/三相試験と同様とだけしか公表されていない。早期患者試験と進行患者試験が実施された。

同剤は可逆的MAO-B阻害剤なので、テバがルンドベックと共同販売しているAzilect(rasagiline)と同じである。ドイツのメルク・セラノと共同開発していたが昨秋、提携解消した。

同社は新たにイタリアのZambon社と開発提携したことと、13年間に亘って君臨した創立者・CEOの退任を発表した。これらのことを考えると、株価は6割上昇したものの、第三相試験の結果はそれほど良くなかったのではないだろうか。

日本と一部アジア地域での開発販売権は今年2月にMeiji Seikaファルマ(明治ホールディング・グループ)が取得した。

リンク:ニューロンのプレスリリース(pdfファイル)
第三相試験結果
Zambonと提携
創立者兼CEO退任

承認申請・承認


カナダで治療用幹細胞が世界で初めて承認

健常者由来の幹細胞を治療薬として使う、画期的な治療法がカナダで承認された。世界初。

オサイリス・セラピュティクス(NASDAQ: OSIR)が開発したProchymal(remestemcel-L)で、難治性、激性の小児移植片対宿主病(GvHD)の治療に用いる。ボランティアから集めた成人間葉幹細胞を培養した汎用品だ。

他家造血幹細胞移植後に激性GvHDを発症しステロイド治療に反応しなかった患者を組入れた第三相試験は期待外れに終わったが、小児の成績が良かった模様で、今回の承認につながった。

条件付き承認なので市販後調査で有効性を確認する必要がある。

米国や欧州など、他の国で承認される可能性はあるか?回答は難しい。一つだけ言えるのは、丸山ワクチンのように、有効性の検討が不十分なまま沢山の患者に使われるような事態だけは避けるべきである。

同社はサノフィ・アベンティスのジェンザイム部門と開発提携していたが、今年2月に解消した。日本では日本ケミカルリサーチが導入、JR-031として持田製薬と共同で第三相試験中。

リンク: オサイリスのプレスリリース

医薬品の安全性


FDAもジレニア/イムセラの警告を強化

FDAは、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬Gilenya(fingolimod)の警告強化を発表した。内容的にはEUのCHMPが発表したものと類似している。

Gilenyaは再発リスク削減効果が標準療法であるベータ・インターフェロンより高く、経口投与可能であることもあり大きな期待を集めた。しかし、市販後に複数の死亡例が報告され、うち数例は心臓疾患を合併していたことから、改めて心毒性が注目されるようになった。

FDAによると薬との因果関係が明確ではない症例が多い。それでも、初回服用時に除脈が発生しがちなので、6時間に亘って一時間に一回、血圧と心拍数を検査し、6時間経過後に再び心電図を取るよう勧告した。

除脈は二相性で、最初の6時間だけでなく、12-20時間経過時にも発生しやすいようだ。このため、除脈リスクの高い患者は6時間以上心電図を観察するよう勧告した。

Gilenyaの効果はS1P受容体に結合して細胞内部に移行(インターナライズ)させる作用が寄与している。本来のレガンドがリンパ球に結合してリンパ節から移動させるのを阻害し、免疫力を低下させる。

選択性が低く、S1P受容体の様々なアイソフォームに結合することが除脈作用の原因かもしれない。S1P1選択性の高い化合物なら心毒性が小さい可能性がある。

リンク: FDAのリリース

トピック


CDC:5月19日は肝炎検査の日

米国のCDC(疾病予防管理センター)は5月を肝炎啓蒙月間、5月19日を全国肝炎検査の日とすることを発表した。

C型肝炎の成人の75%を占めるベビーブーマー(1945年から1965年に生まれた人)やB型肝炎罹患率が高いアジア大洋州系アメリカ人、そして注射用(違法)薬物経験者はリスクが高いとのことだ。

推定では、ベビーブーマーの30人に一人がC型肝炎ウイルスに感染している。全員が検査を受ければ80万人以上のC型肝炎ウイルス感染者を発見して必要な治療を行い、この病気で死亡する人を12万人以上減らすことが出来る由だ。

Q&A方式の簡単なリスク評価ツールも用意されている。試してみたところ、B型肝炎の検査を受けるよう推奨された。筆者はベビーブーマーだが、年齢や性別を変えても同じだったので、アジア大洋州地域で生まれた人はそれだけで検査推奨となるのだろう。

92年7月以前に輸血を受けたか、87年以前に凝固因子濃縮物を使ったか、という質問もあったが、日本では違った年を区切りに使う必要がありそうだ。もっとも、凝固因子濃縮物を使ったことがあるか聞かれても、答えられる人は少ないだろう。

HIV/AIDSの核酸検査メーカーが日本で行った試験によると、HIV/AIDS抗体検査で陰性だった輸血用血液の一部は核酸検査では陽性だった。この結果を受けて日本が核酸検査を導入したのはつい10年ほど前のことである。

薬害AIDS事件の教訓は生かされていない。重要なのは責任者を追求し犯人を見つけることではなく、科学的な対策を導入し、もし適切な対策が見つからないなら、見つかるまで諦めずに努力を続けることだ。

リンク: CDCのリリース
CDCの肝炎リスク診断ツール

今週は以上です。

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