2012年5月27日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月27日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • VEGF阻害剤の肺癌試験が又もフェール
  • メデイベーションとアステラス製薬が前立腺癌用薬を承認申請
  • バイエルが大腸がんのサルベージ療法薬を承認申請
  • FDAの諮問委員会はイグザレルトの急性冠症候群用途を支持せず
  • FDA諮問委員会がファイザーの希少疾患用薬の効果をある程度認めた
  • CHMPがエーザイの抗癲癇薬などの承認を支持
  • CHMPがプラザキサの出血リスクの検討を完了

新薬開発


VEGF受容体拮抗剤の肺癌試験が又もフェール 

バイエルとオニクス・ファーマシューティカル(NASDAQ: ONXX)は、Nexavar(和名ネクサバール;sorafenib)の非扁平上皮性非小細胞性肺癌(NSNSCLC)第三相単剤投与試験がフェールしたことを公表した。Nexavarは腎臓や肝臓の癌に承認されている。

VEGF受容体拮抗剤は多くの製薬会社が販売・開発している人気分野だが、肺癌向けの開発は難航している。今回の試験は三次治療、四次治療だが、一次治療、二次治療の併用試験もフェールした。他社の開発品も同様である。

今回の試験の主評価項目は全生存期間で、二次的評価項目である無増悪生存期間の解析は良好な結果であった模様だ。逆に言えば、第二相試験で無増悪生存期間が延びたとしても喜ぶのは早く、症例追跡を行って延命効果を確認する必要が、少なくともVEGF受容体拮抗剤に関しては、あるのだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

承認申請・承認


メディベーションとアステラス製薬が前立腺癌用薬を承認申請 

米国のメディベーション(NASDAQ: MDVN)とアステラス製薬はMDV3100(enzalutamide)を米国で承認申請した。去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる化学療法を既に受けた患者の二次治療に用いる。

MDV3100はアンドロゲン受容体の作用を阻害する経口剤で、テストステロンの結合、アンドロゲン受容体の核転座、そしてDNAに結合し活性化するのを阻害する。第三相試験では死亡ハザードレシオが0.631で偽薬比高度に有意だった。

リンク:両社のプレスリリース

バイエルが大腸がんのサルベージ療法薬を承認申請 

バイエルはBAY 73-4506(regorafenib)を転移性結腸直腸癌のサルベージ療法として欧米で承認申請した。オニクス・ファーマシューティカル(NASDAQ: ONXX)がロイヤルティ権を持っている。

Nexavarと同様なVEGF受容体拮抗剤で、1、2、3の三種類の受容体アイソタイプに加えて、kitやC-rafやB-rafなども阻害する。

第三相試験では承認されている全ての薬に不応不耐の患者に160mgを一日一回、3週間経口投与・1週間休薬のスケジュールで投与したところ、中間解析でメジアン無増悪生存期間が6.4ヶ月と偽薬群の5.0ヶ月を上回り、治験成功と判定された。

リンク:バイエルのプレスリリース

FDAの諮問委員会はイグザレルトの急性冠症候群用途を支持せず

バイエルのXa阻害剤Xarelto(和名イグザレルト;rivaroxaban)は心房細動患者の脳卒中予防などの用途で承認されている。

急性冠症候群亜急性期の患者を対象とした第三相試験、ATLAS-ACS 2 TIMI 51が成功し、昨年のAHA科学部会で大々的に発表された。しかし、FDA諮問委員会ではエビデンスの頑強性に疑問を呈する意見が多く出て、結局、承認に反対が6人、賛成4人、棄権1人と票が割れてしまった。

心筋梗塞などの複合評価項目のハザードレシオが2.5mg一日二回経口投与群と同じく5mg群の合計で偽薬比0.84、p=0.008と、中々良い結果だったのだが、最後までフォローアップできなかった被験者が全体の12%と多いことが判明。rivaroxaban群は出血が原因で治験離脱・欠測となった症例が多かったようだ。

事前に公表されたブリーフィング資料では審査担当者が肯定的な評価を示したが、諮問委員会でプレゼンテーションを行ったチーム・リーダーを務めるMarciniak博士がこの点を問題にした。氏はこれまでにも、抜き出し調査で未報告の心筋梗塞症例が発見されたことなど、大規模アウトカム試験の脆弱性を大胆に指摘してきた。

今回は、Nissen博士(クリーブランド・クリニック)やKaul博士(UCLA)などがMarciniak博士の意見を支持、エビデンス不十分と看做す意見が多数を占めた。尤も、反対意見と賛成意見の境界線は曖昧である模様だ。効果を疑うと言うよりも、アウトカム試験の実施方法に関する問題意識の強弱が票を分けたと考えるほうが良さそうだ。

リンク:バイエルのプレスリリース
ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース
循環器トライアルデータベースのATLAS-ACS 2 TIMI 51試験に関する記述(日本語)

FDA諮問委員会がファイザーの希少疾患用薬の効果をある程度認めた 

ファーザーはtafamidis megluminをTTR-FAP(トランスサイレチン家族性アミロイド多発性ニューロパチー)という希少疾患の治療薬として承認申請した。希少疾患なので治験も小規模であり、評価が難しいが、欧州は2011年11月に承認した。

今回、FDA諮問委員会も好意的に評価した。進行抑制という臨床的な効能に関してはエビデンス不足であることから反対13人、賛成4人と認めない意見が多数を占めたが、下肢機能改善については、代理マーカーで作用が示唆されたことから臨床的な効用があると判定しても良い、と考える委員が13人対4人で上回った。

分かりにくい記述だが、例えば降圧剤は血圧降下作用を確認すれば心筋梗塞・卒中予防効果を確認しなくても承認を得ることができる。血圧と言う代理マーカーの信頼性が高く、血圧が下がれば心筋梗塞・卒中も減ると考えるのが合理的だからだ。

一方、TTR-FAPは患者数が世界で推定8000人と少ないため、薬効を評価するための代理マーカーは確立しておらず、かと言って、大規模アウトカム試験を行うのは現実的でないだけでなく、希少疾患用薬の開発を奨励する法制にも反する。そこで、FDAが賢者の知恵に頼ったのである。

今回の諮問委員会に関する報道はメディアによって区々だが、進行抑制効果を認めなかったことよりも代理マーカーの有効性を支持したことのほうが重要であり、承認に向けて一歩前進したと考えたい。

リンク:ファイザーのプレスリリース

CHMPがエーザイの抗癲癇薬などの承認を支持 

EUの薬品審査機関であるEMAの専門家委員会、CHMPが5月の会合で多くの新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

エーザイのFycompa(perampanel)はAMPA拮抗剤。部分癲癇(二次性全身性癲癇発作を含む)の治療薬として肯定的意見を受けた。複数の抗癲癇薬を服用しても十分に発作を防げない患者を組入れたアドオン試験で発作を大きく削減した。主な有害事象はめまい、眠気。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル) 

ノボ ノルディスクのNovoThirteen(catridecacog)は遺伝子組換え型第XIII因子。先天性第XIII因子Aサブユニット欠乏症(患者数は世界で900人、うち欧州は300人)の患者の出血事故を予防するために、月一回投与する。第XIII因子は血栓カスケードの終わりの方に登場し、フィブリン網を強固にして溶解されにくくする。BMSが買収したサイモジェネティクスからライセンスしたもの。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
ノボ ノルディスクのプレスリリース

バーテックス社のKalydeco(ivacaftor)はG551D型膿胞性繊維症の治療薬。治験では一秒呼吸量が有意に改善した。膿胞性繊維症の患者は世界で7万人、うちG551D多型を持つのは4%と推測されている。米国のバーテックス(NASDAQ: VRTX)がCFF(膿胞性繊維症財団)の補助金を受けて開発したもの。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
バーテックスのプレスリリース

Almirall社のBretaris Genuair(aclidinium bromide)はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法として用いる長期作用性ムスカリン拮抗剤。ベーリンガー・インゲルハイムのベストセラーであるSpiriva(tiotropium)の競合品。GenuairはDPI(ドライパウダー吸入器)の製品名。

米国ではフォレスト(NYSE: FRX)が導入、7月頃に承認される見込み。日本は昨年11月、杏林製薬が開発販売権を取得した。

リンク:EUのプレスリリース

ファイザーのInlyta(axitinib)はVEGF受容体拮抗剤。Sutent(sunitinib)又はサイトカイン療法(ベータ・インターフェロンやIL-2)後の二次治療として用いる。治験ではNexavar(sorafenib)より無増悪生存期間が有意に優れていた。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
ファイザーのプレスリリース

(SKのVotrient(pazopanib)は腎細胞腫に承認されているVEGF受容体拮抗剤だが、軟組織肉腫に適応拡大することが支持された。様々なサブタイプのうち、薬効確認試験で対象外だったGIST(消化管間質腫瘍)と脂肪肉腫は適応外。

化学療法後の維持療法として用いる。治験では無増悪生存期間がメジアン4.6ヶ月と偽薬群の1.6ヶ月を上回った。米国では今年4月に承認されたが、致死例を含む肝毒性が枠付警告されている。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
GSKのプレスリリース

医薬品の安全性


CHMPがプラザキサの出血リスクの検討を完了

ベーリンガー・インゲルハイムの抗血栓薬Pradaxa(和名プラザキサ;dabigatran)は、心房細動患者の脳卒中を予防する用途が承認された後に、多くの致死的出血事故が報告された。多くは日本の症例だが、FDAやCHMPも再検討を行ってきた。人種や医療風土が異なるとはいえ看過できることではないからだろう。

結局、CHMPは評価を変える必要はないと判定した。市販後の致死的出血事故の発生率は承認の根拠となった臨床試験の発生率よりも低いとのことである。

一方で、医師や患者にリスクや対応法を明確に伝えるためにレーベルの文言を見直し、禁忌を明確にしたり腎機能の評価方法を詳述したりすることを決定した。また、事故や傷害後の症例が多いことから、転倒したり怪我をした場合は急いで医師にコンタクトするよう患者向けのリーフレットで勧告することを決めた。

リンク:EUのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年5月20日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月20日号

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ニュース・ヘッドライン

  • アムジェンの抗体医薬が前駆B白血病に好成績
  • クリゾチニブが小児リンパ腫の一部に著効
  • safinamideの第三相試験結果
  • カナダで治療用幹細胞が世界で初めて承認
  • FDAもジレニア/イムセラの警告を強化
  • CDC:5月19日は肝炎検査の日

新薬開発


アムジェンの抗体医薬が前駆B白血病に好成績

ASCO(米国臨床腫瘍学会)の抄録が一般公開され、各社が主要な演題、内容を公表した。注目されるのは、まず、アムジェンのAMG 103(blinatumomab)の第二相試験だ。

再発性、難治性の成人前駆B急性リンパ性白血病を罹患する36人を組入れた試験で、72%が完全反応した。投与制限的毒性は中枢神経性症状とサイトカイン放出症候群。致死的な真菌感染症も発生した。主な有害事象は発熱、頭痛、震戦、疲労など。

blinatumomabは今年1月に買収したマイクロメットが開発した二相性抗体で、可変領域の一つが前駆B細胞のCD19に結合し、もう一つがT細胞のCD3に結合して、癌化したB細胞をT細胞に攻撃させる。

T細胞を増強するのでサイトカイン放出症候群の発生はありそうなことだ。震戦は良く分からない。

異なった抗体の抗原結合部位を組み合わせる手法はリジェンロン(NASDAQ: REGN)も加齢性黄班変性治療薬Eylea(aflibercept)として実用化に成功した。抗体に細胞毒を結合して「トロイの木馬」方式で癌細胞を攻撃する新薬も発売された。

抗体医薬の開発は新しいステージに入った。

リンク: アムジェンのプレスリリース

クリゾチニブが小児リンパ腫の一部に著効

ASCOが開催した事前プレス・ブリーフィング(記者発表会)で、ファイザーのALK陽性非小細胞性肺癌用薬であるXalkori(crizotinib)の用途探索的試験の結果が発表されたようだ。複数のメディアが報じている。

この第一相試験はALK融合蛋白(染色体転座が起きてALK遺伝子の一部が他の遺伝子と結合すると発生する)を持つ固形癌又は未分化大細胞リンパ腫(ALCL)の子供を対象としたもの。ALCLの患者8人のうち、7人が完全反応した。

用量制限的毒性はめまい、腫瘍内出血、肝機能検査値異常など。ブレス・ブリーフィングで発表した研究者は第三相試験を計画しているようだ。

XalkoriはALKを阻害する小分子薬で2011年にALK融合蛋白陽性非小細胞性肺癌向けに日米で承認申請され、米国で承認された。ALKは未分化リンパ腫キナーゼの略であり、もしALCLに著効があるとしたら、命名が正しかった稀有な例だ。

リンク:MedPage Todayの記事 (事前登録要)
ASCO 2012の抄録(抄録番号9500、Yael P. Mosseら・・・おそらく事前登録要)

safinamideの第三相試験結果

イタリアの新興企業ニューロン・ファーマシューティカルズ社(SIX NWRN)はsafinamideのパーキンソン病治療第三相試験の結果を発表した。と言っても、これまでに実施された第二/三相試験と同様とだけしか公表されていない。早期患者試験と進行患者試験が実施された。

同剤は可逆的MAO-B阻害剤なので、テバがルンドベックと共同販売しているAzilect(rasagiline)と同じである。ドイツのメルク・セラノと共同開発していたが昨秋、提携解消した。

同社は新たにイタリアのZambon社と開発提携したことと、13年間に亘って君臨した創立者・CEOの退任を発表した。これらのことを考えると、株価は6割上昇したものの、第三相試験の結果はそれほど良くなかったのではないだろうか。

日本と一部アジア地域での開発販売権は今年2月にMeiji Seikaファルマ(明治ホールディング・グループ)が取得した。

リンク:ニューロンのプレスリリース(pdfファイル)
第三相試験結果
Zambonと提携
創立者兼CEO退任

承認申請・承認


カナダで治療用幹細胞が世界で初めて承認

健常者由来の幹細胞を治療薬として使う、画期的な治療法がカナダで承認された。世界初。

オサイリス・セラピュティクス(NASDAQ: OSIR)が開発したProchymal(remestemcel-L)で、難治性、激性の小児移植片対宿主病(GvHD)の治療に用いる。ボランティアから集めた成人間葉幹細胞を培養した汎用品だ。

他家造血幹細胞移植後に激性GvHDを発症しステロイド治療に反応しなかった患者を組入れた第三相試験は期待外れに終わったが、小児の成績が良かった模様で、今回の承認につながった。

条件付き承認なので市販後調査で有効性を確認する必要がある。

米国や欧州など、他の国で承認される可能性はあるか?回答は難しい。一つだけ言えるのは、丸山ワクチンのように、有効性の検討が不十分なまま沢山の患者に使われるような事態だけは避けるべきである。

同社はサノフィ・アベンティスのジェンザイム部門と開発提携していたが、今年2月に解消した。日本では日本ケミカルリサーチが導入、JR-031として持田製薬と共同で第三相試験中。

リンク: オサイリスのプレスリリース

医薬品の安全性


FDAもジレニア/イムセラの警告を強化

FDAは、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬Gilenya(fingolimod)の警告強化を発表した。内容的にはEUのCHMPが発表したものと類似している。

Gilenyaは再発リスク削減効果が標準療法であるベータ・インターフェロンより高く、経口投与可能であることもあり大きな期待を集めた。しかし、市販後に複数の死亡例が報告され、うち数例は心臓疾患を合併していたことから、改めて心毒性が注目されるようになった。

FDAによると薬との因果関係が明確ではない症例が多い。それでも、初回服用時に除脈が発生しがちなので、6時間に亘って一時間に一回、血圧と心拍数を検査し、6時間経過後に再び心電図を取るよう勧告した。

除脈は二相性で、最初の6時間だけでなく、12-20時間経過時にも発生しやすいようだ。このため、除脈リスクの高い患者は6時間以上心電図を観察するよう勧告した。

Gilenyaの効果はS1P受容体に結合して細胞内部に移行(インターナライズ)させる作用が寄与している。本来のレガンドがリンパ球に結合してリンパ節から移動させるのを阻害し、免疫力を低下させる。

選択性が低く、S1P受容体の様々なアイソフォームに結合することが除脈作用の原因かもしれない。S1P1選択性の高い化合物なら心毒性が小さい可能性がある。

リンク: FDAのリリース

トピック


CDC:5月19日は肝炎検査の日

米国のCDC(疾病予防管理センター)は5月を肝炎啓蒙月間、5月19日を全国肝炎検査の日とすることを発表した。

C型肝炎の成人の75%を占めるベビーブーマー(1945年から1965年に生まれた人)やB型肝炎罹患率が高いアジア大洋州系アメリカ人、そして注射用(違法)薬物経験者はリスクが高いとのことだ。

推定では、ベビーブーマーの30人に一人がC型肝炎ウイルスに感染している。全員が検査を受ければ80万人以上のC型肝炎ウイルス感染者を発見して必要な治療を行い、この病気で死亡する人を12万人以上減らすことが出来る由だ。

Q&A方式の簡単なリスク評価ツールも用意されている。試してみたところ、B型肝炎の検査を受けるよう推奨された。筆者はベビーブーマーだが、年齢や性別を変えても同じだったので、アジア大洋州地域で生まれた人はそれだけで検査推奨となるのだろう。

92年7月以前に輸血を受けたか、87年以前に凝固因子濃縮物を使ったか、という質問もあったが、日本では違った年を区切りに使う必要がありそうだ。もっとも、凝固因子濃縮物を使ったことがあるか聞かれても、答えられる人は少ないだろう。

HIV/AIDSの核酸検査メーカーが日本で行った試験によると、HIV/AIDS抗体検査で陰性だった輸血用血液の一部は核酸検査では陽性だった。この結果を受けて日本が核酸検査を導入したのはつい10年ほど前のことである。

薬害AIDS事件の教訓は生かされていない。重要なのは責任者を追求し犯人を見つけることではなく、科学的な対策を導入し、もし適切な対策が見つからないなら、見つかるまで諦めずに努力を続けることだ。

リンク: CDCのリリース
CDCの肝炎リスク診断ツール

今週は以上です。

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2012年5月13日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月13日号

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ニュース・ヘッドライン

  • ロシュがCETP阻害剤の開発を中止
  • FDAの諮問委員会がJAK阻害剤などの承認を支持、痛風用薬は駄目
  • セル・セラピュティクスの抗癌剤がEUで承認
  • グーグルの共同創立者がパーキンソン病の研究に巨額拠出


新薬開発


ロシュがCETP阻害剤の開発を中止

ロシュは日本たばこ(JT)から導入したCETP阻害剤、dalcetrapib(RG1658/JTT-705)の開発を中止した。第三相アウトカム試験の第二次中間解析で無益性が認定されたため。

CETP阻害剤は善玉コレステロールであるHDL-Cを長持ちさせる効果を持ち、数値が大きく増加する。ところが、ファイザーがtorcetrapibで大規模なアウトカム試験を実施したが、同じく無益性で中止になった。それどころか、心血管疾患や死亡者が増加した。

dalcetrapibやMSDのanacetrapib(MK-0859)は血圧やコルチゾール値を上げる副作用を持たないため安全性面での懸念は小さかったが、前者は仮説立証に失敗した。

「CETP阻害剤は善玉コレステロール増加を通じて血管アテローム部位のコレステロール・エステルを減らし、心筋梗塞などのリスクを削減する」という仮説である。

anacetrapibやイーライリリーが第三相試験の準備を進めているevacetrapib(LY-2484595)はHDL-Cを増やす効果がdalcetrapibよりかなり高く、また、スタチンに匹敵するLDL-C削減効果を持っている。

従って、dalcetrapibと同列に論じることはできないが、似たような薬が相次いで失敗したことを考えれば、楽観できないのではないだろうか。

リンク:ロシュのプレスリリース

JTの和文プレスリリース(pdfファイル)

MEDICINE BLOGの2007年の記事
torcetrapib(トルセトラピブ)の謎

torcetrapib(トルセトラピブ)とは

承認申請・承認



FDAの諮問委員会がJAK阻害剤などの承認を支持、痛風用薬は駄目

先週はFDAの諮問委員会が多く開催された。過半の委員の支持を受けたのが、ファイザーのリウマチ性関節炎治療薬tofacitinib、アリーナ/エーザイの体重管理薬lorcaserin、ギリアッドのHIV/AIDS治療用四剤配合剤Quadだ。

ギリアッドのHIV/AIDS治療薬Truvada(和名ツルバダ)を予防に用いる新用法も支持された。一方で、リジェネロンのIL-1拮抗剤rilonaceptを痛風尿酸降下療法時のフレア予防に用いる適応拡大は全員が反対した。

ファイザーのtofacitinibは、インターロイキンの受容体のシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼであるJAKを阻害する画期的新薬。臨床検査値に与える影響は中外製薬の抗IL-6受容体抗体、アクテムラ(トシリズマブ)と類似している。経口剤。

臨床試験では癌や深刻な感染症の発生率が対照群よりやや高く、投与量や投与期間との関連性も疑われた。このため、承認が危ぶまれたが、諮問委員会では便益がリスクを上回ると回答した委員が8人、下回るとの回答は2人だけだった。順調なら今年8月に承認されることになる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

アリーナ・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: ARNA)は2009年12月に体重管理薬lorcaserinを承認申請、翌年にはエーザイと開発販売提携を結んだ。

しかし、FDAは承認しなかった。心血管安全性懸念や動物試験で癌原性のシグナルが見られたことなどが理由のようだ。

同社は追加的な試験や分析を実施して2012年1月にFDAに提出した。懸念が薄れた模様であり、諮問委員会では23人の委員のうち18人が承認を支持、反対4人や棄権1人を大きく上回った。

ヴィーヴァス社の体重管理用コンビ薬も同じような経過を辿っており、この領域全体に承認のハードルが極めて高い状態からやや高い状態に下がったようだ。

もっとも、lorcaserinの治療効果は決して高くない。治験の平均治療効果(偽薬群との差)は3%程度であり、体重100kgの患者が生活習慣改善で2kg痩せるとすると、lorcaserinを併用しても5kg痩せるだけである。

BMI値と心血管リスクの相関性は単純比例ではなく、一定水準を超えると加速的にリスクが上昇する。高度肥満の患者は3%の減量でも意味があるだろうが、それ以外の肥満症に対する臨床的便益は明確ではない。

順調なら6月27日までに承認されることになるが、FDAは市販後に心血管アウトカム試験を実施するよう求めるだろう。

米国では成人の3分の2以上が肥満又は太り過ぎ(オーバーウェイト)とされるので体重管理薬の潜在市場は極めて大きいが、ニーズに応えられるかどうかは、アウトカム試験の結果次第だろう。

尚、エーザイ提携は当初は米国市場だけだったが、米州20ヶ国に拡大したことが発表された。

リンク:アリーナ社/エーザイのプレスリリース

エーザイの和文プレスリリース

ギリアッドはHIV/AIDS治療薬の開発に積極的に取り組むと同時に、複数の活性成分を配合したコンビ薬も次々と開発、BMS/MSDと提携して2006年にAtriplaを、J&Jと提携して2011年にCompleraを発売した。

諮問委員会では、JTからライセンスしたインテグレーズ阻害剤、elvitegravirなど四剤を配合したQuadを、初めて多剤併用療法を受けるナイーブ患者に用いることが13人対1人の多数で支持された。上記二剤と同様に、一日一回一錠の服用で済むので簡便だ。

順調なら8月27日までに承認されることになる。

インテグレーズ阻害剤はHIVの遺伝子が宿主細胞の遺伝子に紛れ込む過程を阻害する。ファースト・イン・クラスはMSDのIsentress(和名アイセントレス)。抗HIV薬の中では比較的忍容性に優れるので、将来的に第一選択薬になる可能性がありそうだ。

Quadは他にcobicistat、emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarateを配合している。cobicistatは新開発の3A4阻害剤で、elvitegravirの代謝を遅らせて作用を持続させる。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

TruvadaはQuadの四剤のうち、emtricitabineとtenofovir disoproxil fumarateの逆転写阻害剤二剤の合剤で米国では2001年にHIV/AIDS治療薬として発売された。

性的感染リスクが高い患者を組入れたHIV/AIDS感染予防試験が成功、適応拡大申請された。諮問委員会では、男性と性交する男の予防用途に関して22人中19人が承認に賛成。感染者と性交する非感染者向けも19人が賛成。

それ以外の高リスクな人向けは12人が賛成した。順調なら6月15日までに承認されることになる。

抗HIV薬を感染予防に使うのは四つの難問がある。第一は、既に感染していた場合に、Truvadaは二剤併用なので治療には十分な効果がなく、抵抗性変異が生じる可能性が高いことだ。事前に十分に検査する必要がある。

第二は、言うまでも無く、副作用だ。第三は油断。他の感染予防策を怠るかもしれない。第四は価格。年1.4万ドルの薬代を誰が負担するのか?様々な難しい問題を抱えている。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

一方、リジェネロン(NASDAQ: REGN)のArcalyst(rilonacept)の適応拡大は全員が反対した。CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群の治療薬として既に承認されている薬だが、新用途は患者数が多く、効果もそれほど大きくないため、便益とリスクが釣り合わないと判定された。

この新用途は、痛風患者の尿酸降下療法に付随するフレア(痛風症状の増悪・・・結晶化した尿酸が溶解して血液中に入り込むことが原因と推測されている)を防ぐというもの。16週間の治験では回数が7割以上減少した。

一方で、癌や深刻な心臓疾患が偽薬群より多く発生した。16週間で癌になるとは考えられないが、心臓疾患リスクは懸念材料である。現実の医療では16週より長く投与を続ける可能性があるので、もっと増える可能性もある。

予防薬は治療薬より高い忍容性が求められる。承認審査期限は6月30日だが、承認されない可能性が高まった。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

セル・セラピュティクスの抗癌剤がEUで承認

EUで、セル・セラピュティクスのアンスラサイクリン系抗癌剤Pixuvri(pixantrone)を再発性・難治性アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫に用いることが承認された。

米国では3年前に承認申請したが承認されず、再申請も撤回となり、難航している。米国の敵をEUで討った格好だ。

リンク:セル・セラピュティクスのプレスリリース

トピック



グーグルの共同創立者がパーキンソン病の研究に巨額拠出

グーグルの共同創立者であるSergey Brin(38歳)はパーキンソン病の研究のためにマイケル・J・フォックス財団を通じて1.3億ドルの拠出を行っている。ブルンバーグが報じた。

パーキンソン病の患者の一部はLLRK2という遺伝子多型を持っている。Brin氏は、若くして発症した母親と同様に、この多型を保有している由であり、これが巨額拠出の動機であるようだ。

米国では企業や個人の寄付活動が活発で、例えば他国で自然災害が発生した場合、国の拠出は他の国より少ないがそれを補って余りあるほど民間が義捐金を出す。今回のエピソードは、病気の解明や治療法の開発でも富豪の寄付が重要な資金源になりうることを示している。

尚、フォックス財団は映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の主演で一躍有名になり、その後パーキンソン病を発病した映画俳優が創立した財団で、研究者や治療薬開発企業に助成金を出している。

リンク:ブルンバーグの記事

今週は以上です。

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2012年5月6日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月6日号


(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)


ニュース・ヘッドライン




  • アクテリオンの第三相アウトカム試験が成功
  • J&Jが米国でイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大申請
  • ニンジン細胞培養による希少疾患用薬が米国で初承認
  • アボットが腎臓学領域のパイプラインを買収
  • BG-12のロイヤルティ権利をロイヤルティ・ファーマが買収
  • GSKはアストラゼネカの買収に興味が無い
  • カナダでレブラミドのドクターレター


新薬開発




アクテリオンの第三相アウトカム試験が成功




スイスのアクテリオン(SIX: ATLN)はエンドセリンA/B受容体拮抗剤ACT-064992(macitentan)の第三相肺高血圧症試験が成功したと発表した。
偽薬、3mg、10mgの三群に無作為化割付して疾病悪化・死亡リスクを比較したところ、3mg群は偽薬群より30%、10mgは45%、低かった。




肺高血圧症治療薬の第三相試験は、同社のTracleer(bosentan;和名トラクリア)を含めて、6分間歩行テストや症状スコアを用いて薬効評価することが多い。macitentanの開発が画期的なのはアウトカム試験を行ったことだ。Tracleerの後継薬となるべきmacitentanに強力なエビデンス、セールスポイントを与えるために、ハイリスク・ハイリターン型の第三相試験に踏み切ったのである。それだけに、開発成功はサプライズであり、価値が高い。




Tracleerと比べて受容体結合の持続性や組織移行性が高く、一日一回の服用で足りる。末梢浮腫や肝機能検査値異常のリスクも小さい模様であり、第三相試験の発生率は偽薬並みだった。安全性面でも競争力がありそうだ。




リンク:アクテリオンのプレスリリース



【承認申請・承認




J&Jが米国でイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大申請




Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban;和名イグザレルト)は様々な用途で開発されていて、米国では関節手術後の静脈血栓塞栓予防と心房細動患者の脳卒中予防で承認、急性冠症候群の再発予防で承認審査中だが、新たに、静脈血栓塞栓の治療用途で承認申請された。




バイエルから米国の開発販売権を取得したJ&Jが申請したもの。臨床試験では、当初はヘパリン、その後はワルファリンを用いた群と再発リスクや安全性が同程度だった。




経口抗血栓薬の市場性は高リスク心房細動患者向けが一番大きいが、二番目は静脈血栓塞栓治療だ。急性冠症候群も大きいが治験で多剤併用による出血リスクが見られたので、承認も普及も不透明だ。それだけに、今回の用途は重要である。




リンク:J&Jのプレスリリース





ニンジン細胞培養による希少疾患用薬が米国で初承認




イスラエルのProtalix BioTherapeutics(NYSE-AMEX:PLX、TASE:PLX)がファイザーと共に開発したI型ゴーシェ病治療薬、Elelyso(taliglucerase alfa)が米国で承認された。この希少疾患はライソゾームの糖脂質分解酵素、グルコセレブロシダーゼの不足が原因で肝脾腫、貧血、易出血、骨疾患などを発症する。




代表的な治療薬であるジェンザイム(サノフィの子会社)のCerezymeは、この酵素の遺伝子をチャイニー・ズハムスター卵巣細胞に組込んで生産させたもの。シャイアのVPRIVはヒト細胞に組込み・生産させたものだ。一方、Elelysoはニンジン細胞を使っている点が画期的。遺伝子組換え薬の特許は培養細胞に関するものが多いので、他社の特許を侵害せずに類似した薬を開発できる可能性がある。




Cerezymeは年20万ドルの高価な薬だが、Protalixは25%低い価格で販売する予定。ジェンザイムと同様に、民間医療保険加入者の自己負担を肩代わりし、未加入者には値引きする計画。Cerezymeは品質管理問題が発生し供給不足状態にある。Protalixは24ヶ月分の在庫を維持することで安定供給を確保する考えだ。




リンク:FDAのプレスリリース




Protalix・ファイザーのプレスリリース



製薬会社の動き




アボットが腎臓学領域のパイプラインを買収




アボットはデンマークのAction Pharma A/Sからメラノコルチン受容体アゴニストAP214の権利を完全買収することを発表した。代価は1.1億ドルで、Zealand Pharmaに一桁台前半の売上ロイヤルティを負う以外は後発債務は無い。AP214はZealandのペプチド至適化技術を用いて開発されたαメラニン形成細胞刺激ホルモン誘導体。虚血時の炎症反応やアポトーシスを緩和する作用がある模様だ。




後期第二相段階で、一本目の結果は昨年のRenal Week(米国腎臓学会)のlate-breakerで発表された。抄録によると、オンポンプ心臓手術を受ける急性腎障害のリスクが高い患者77人を偽薬、600mcg、800mcgの三群に割付けて、施術前後に三回に分けてivボラス投与した。各群の90日死亡・罹患(透析施行や腎機能低下)発生率はそれぞれ58%、24%、35%となり、二用量とも大きなリスク削減効果を示した。高用量群はGFR(腎濾過率)や急性腎障害リスクも有意に優れていた




データの割には安い買い物だ。おそらく、何か弱点があるのだろう。そもそも、この試験は後期第二相と呼ぶには症例が少ない。普通なら後期第二相の次は第三相だが、アボットは二本目の後期第二相試験を年内に開始する予定。




リンク:アボットのプレスリリース




2011年Renal Week抄録(pdfファイル) ・・・D. Steinbrucheら(LB-P03172、第9B頁)





BG-12のロイヤルティ権利をロイヤルティ・ファーマが買収




バイオジェン・アイデックが承認申請した多発性硬化症薬に係わる権利を米国のロイヤルティ・ファーマ社が7.6億ドルで買収した。




ロイヤルティ・ファーマ社のビジネスモデルは、開発中・上市済みの新薬に係わるロイヤルティ権や達成報奨金権を買収することだ。取引相手の企業や大学は将来の収入を今日の研究資金に代えることができる。一方、ロイヤルティ・ファーマは新薬の将来性を適切に評価することによって、買収額を上回る収入を得ることが期待できる。




これまでに、HumiraやNeulastaやRemicade、Lyricaなどに係わる権利を買収した。2011年にはアステラス製薬からDPP-4阻害剤に関する特許を6億ドルで買収している。このDPP-4阻害剤の特許は元々はポセイドンという新興企業が持っていたが、抗癌剤タルシバを開発したOSI社が糖尿病薬に進出するために買収、その後、OSIを買収したアステラスがおそらく投資資金の一部を回収するために売却した経緯がある。




このエピソードを見ても分かるように、企業買収の活発化はロイヤルティ・ファーマには追い風だ。




今回のBG-12(dimethyl fumarate)はスイスのフマファーム社を買収して入手したもの。今年2月に承認申請された。再発寛解型多発性硬化症の再発を防ぐ効果が高く、また、経口投与できる。免疫抑制作用が小さいため、ジレニアのような日和見感染リスクを持たない。心血管副作用も小さい。肝毒性が懸念されたが、第三相試験では大きな問題はなかった模様だ。紅潮や胃腸系副作用の発生率が高いが深刻ではなさそうだ。




フマファームの株主は年商が一定水準を超えた場合に達成報奨金をバイオジェン・アイデックから貰うことができる。ロイヤルティ・ファーマはこの権利を買収した。年商が30億ドルを超えれば累計で9億ドル程度に達するはずなので、十分ペイしそうだ。




リンク:ロイヤルティ・ファーマのプレスリリース(pdfファイル)





GSKはアストラゼネカの買収に興味が無い




グラクソ・スミスクライン(GSK)のCEOであるAndrew Wittyは、年次株主総会で、アストラゼネカを買収する考えが無いことを明らかにした。Economic Timesなどが報じた。




既報のように、GSKはヒューマン・ジノム・サイエンス(NASDAQ:HGSI)に買収オファーを行ったが、価格が低すぎると断られた。一方、アストラゼネカはCEOのDavid Brennanの退任が発表されたところであり、タイミングとしては買収を仕掛け易い。そこで、株主総会に出席した投資家が買収するならアストラゼネカの方が良いのではないかと尋ねたが、Wittyは、巨大買収はdistracting(集中の妨げになる)と語った。




製薬業界では2000年前後に巨大買収・合併が相次いだが、今日では、問題解決にはならないという声が少なくない。シェアが上昇しても他社が同様に巨大買収を行ったら優位性を失ってしまう。そもそも、知的所有権という参入障壁を持つR&D型製薬業界では、市場全体のシェアが上昇してもストレートに市場支配力が高まるわけではない。結局、重複事業の整理や人員削減、購買力強化などコスト削減効果しか生めない。筆者にも経験があるが、組織統合に費やすエネルギーは大きく、人心の乱れを生み易い。




勿論、大型薬の特許切れを控える企業の苦肉の策としての重要性は今日でも明らかであり、MSDはシェリング・プラウを、ファイザーはワイスを買収した。GSKの場合はグラクソ・ウエルカムとスミスクライン・ビーチャムが合併した時の苦労がよほど大きかったのか、これまでも大型買収に否定的な考えを示している。




リンク:Economic Times




医薬品の安全性




カナダでレブラミドのドクターレター




ヘルス・カナダ(カナダの厚生省)は、セルジーンがRevlimid(lenalidomide;和名レブラミド)の二次性原発性悪性腫瘍リスクに関するドクター・レターを発出したと発表した。




Revlimidはサリドマイド類縁体で再発性多発骨髄腫などに承認されている。複数の一次治療試験が行われ、優れた疾病抑制効果が明らかになったが、意外なことに、二次性原発性悪性腫瘍が多く発生した。ヘルス・カナダによると、発生率は7%で対照群(1.8%)の4倍だった。急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群、固形癌などが多かった。改めて再発治療試験のデータを分析したところ、100人年当りで各3.98と1.38だった。




残念なことだが、血液癌の治療薬は他にも同様な現象が見られるものがある。薬のせいかもしれないし、寿命を延ばすが故に他の癌が進行・表面化する時間を与えてしまうのかもしれない。薬のせいであろうがなかろうが患者や医師にとっては重要な情報なので、ヘルス・カナダは医師に注意喚起したが、全体的には便益がリスクを上回ると判定した。EUの医薬品審査機関と同じだ。FDAは未だ結論を出していないが、おそらく、同じだろう。




リンク:ヘルス・カナダのリリース 




今週は以上です。