2012年4月15日

海外医薬ニュース(週末版)2012年4月15日号



ニュース・ヘッドライン




  • イグザレルトがEUで肺塞栓の治療に適応拡大申請
  • Qnexaの承認審査期間が3ヶ月延長に
  • アルツハイマー病の検査薬が米国で承認
  • アムジェンがKAI Pharmaceuticalsを買収へ
  • イムセラ服用患者で初のPML症例
  • FDAとバイエルがヤーズの血栓リスクを警告
  • 5α還元酵素阻害剤と性機能障害


承認申請・承認



イグザレルトがEUで肺塞栓の治療に適応拡大申請

バイエルは経口Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を肺塞栓の治療に用いる適応拡大申請をEUで行なった。臨床試験では、当初は低分子量ヘパリン、その後はワーファリンを用いる現在の治療法と比べて、再発予防効果も出血リスクも非劣性だった。

経口抗血栓薬の代表格であるワーファリンは世界合計で100以上の適応症で承認されている由だ。新世代であるXa阻害剤や直接的トロンビン阻害剤も出番が多く、Xareltoはこれまでに関節置換術後の静脈血栓塞栓の予防、深静脈血栓の治療、非弁膜性心房細動患者の脳卒中予防の適応を欧米で獲得、急性冠症候群後の再発予防でも承認審査中だ。

リンク:バイエルのプレスリリース


Qnexaの承認審査期間が3ヶ月延長に

Qnexa(phentermineとtopiramateの固定用量合剤)を体重管理用薬として米国で承認申請しているヴィーヴァス社(Nasdaq: VVUS)は、FDAが審査期間を3ヶ月延長したと発表した。2月のFDA諮問委員会で22人の委員中20人の支持を受けたが、4月4日に同社がREMS(リスク評価・緩和戦略)を提出したため、承認申請内容の重大な変更と見なされ、審査期限が7月17日に延期された。

REMSは新薬の適正使用を担保するための方策を列記したもので、誤用による副作用被害を防ぐことが目的。Qnexaは二種類の中枢神経系疾患治療薬を異なったタイミングで放出する遅放性持続性放出製剤になっており、体重抑制作用のシナジーを利用することで配合量を抑え、夫々の薬剤の副作用を緩和している。それでも様々な副作用が懸念され、また、肥満が蔓延している米国では多くの患者が服用する可能性があるため、医師と患者がリスクを理解した上で密接に監視することが重要だ。

FDAは新薬の承認審査を10ヶ月(優先審査の場合は6ヶ月)以内に終える必要があるが、期限が迫った段階でネガティブな情報が提出され十分な審査ができないことがあったため、最後の3ヶ月間に申請内容の重大な変更が行われた場合は期間を延長する制度が導入された。REMSの提出・変更は重大な変更と見なされるので、今回の延長は当然だ。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース


アルツハイマー病の検査薬が米国で承認

アルツハイマー病の病理学的特長は、脳にβアミロイドの蓄積による老人斑が観察されることだ。生検はできないのでPET造影による検査・診断法が活発に研究されているが、遂に、初の検査薬が米国で承認された。



イーライリリーが2010年に買収したAvid RadiopharmaceuticalsのAmyvid(florbetapir F 18)だ。βアミロイドに結合する物質を放射性核種と繋げたもの。FDAの発表文によると、病気の進行を予測する効能は未だ不明。画像評価は簡単ではなく、事前に研修を受けて判定能力を確認する必要がある。

症例研究を名目にすれば承認されていない検査薬を用いることができるのだが、正式に承認を取れば、普及が進み共同研究もやり易くなるだろう。βアミロイド蓄積量と病状はどの程度相関するのか?発症前に高リスク患者をスクリーニングすることは可能か?研究課題は多い。



そもそも、蓄積は病気の原因なのか、結果なのか?現在、複数のコンパウンドがアルツハイマー病治療第三相試験中で、今年はイーライリーのsolanezumab(抗アミロイドβ(11-20)ヒト化モノクローナル抗体)の、来年はファイザー/J&Jのbapineuzumab(抗アミロイドβ(1-5)ヒト化モノクローナル抗体)の成否が明らかになる予定だ。アミロイド仮説の有望性を占う上で重要なマイルストーンが続く。

リンク:FDAのプレスリリース


リンク:イーライリリーのプレスリリース


製薬会社の動き



アムジェンがKAI Pharmaceuticalsを買収へ
アムジェンはKAI Pharmaceuticalsを315百万ドルで買収することで合意した。



アムジェンはエポエチンなどバイオ薬で有名だが近年は小分子薬のR&D・企業買収にも注力している。例えば、日本で今年3月に承認されたアステラス製薬の高リン血症治療薬キックリンは、アムジェンが2007年に買収したイリプサ社から導入したものだ。



KAIは注射用カルシウム感受受容体ペプチド・アゴニストKAI-4169を、慢性腎疾患透析期の患者がしばしば合併する二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として臨床第二相試験中であり、アムジェンの透析患者向け製品群と販売シナジーがある。尤も、アムジェンはNPS Pharmaceuticalsからライセンスした経口カルシウム受容体作動剤Sensipar(cinacalcet、日本は協和発酵キリンがレグパラとして販売)もラインアップしており、重複する面もある。

エポエチンの売上高は、透析期患者のケアを充実させる世界中の流れに乗り大きく拡大したが、ヘモグロビン値を強力に矯正すると血栓性疾患のリスクが高まることが判明し、また、癌性貧血の治療に用いると寿命が短くなる懸念が浮上したため、近年は伸び悩んでいる。Affymaxが武田薬品と提携して今年3月に米国でOmontysを発売し、数年後にはエポエチンの後発品の発売も見込まれる中、開発パイプラインの強化が課題になっている。



尚、KAI-4169は昨年9月に小野薬品が日本の開発販売権を取得している。



リンク:両社のプレスリリース



医薬品の安全性



イムセラ服用患者で初のPML症例

ノバルティスが田辺三菱製薬から導入して開発・発売した再発寛解型多発性硬化症の維持療法用薬Gilenya(fingolimod、和名イムセラ)で、初のPML症例が報告された模様だ。ノバルティスがEメールで連絡してきたことを4月13日に海外の複数のメディアが報道した。原因は不明だが、Tysabri(natalizumab、日本では未だ臨床開発段階)による前治療歴が3年以上あるとのことなので、より疑わしいのはこちらだろう。

PMLは進行性多巣性白質脳症の略で、脳に炎症が発生して重篤な神経障害を齎す。HIV/AIDSや強力な免疫抑制剤を用いている患者で稀に観察される。JVウイルスという多くの人が感染しているウイルスが原因と推測されている。PMLリスクを持つことで有名なのが、アイルランドのバイオ企業エランが米国のバイオジェン・アイデックと共同販売している再発寛解型多発性硬化症維持療法用薬、Tysabriだ。治療を続けるにつれてリスクが高まっていくので、患者はやがて他の薬にスイッチせざるを得なくなる。



Tysabri治療を受ける患者はインターフェロンβ不応不耐例が多いので、スイッチするとしたら、2010年に米国で、2011年に欧州や日本で承認されたばかりの新薬であるGilenyaが有力な候補になる。しかし、Tysabriは作用が数ヶ月続くので、投与を止めても直ぐにはリスクが低下しないだろう。免疫抑制療法が原因なのだから、同じ免疫抑制剤であるGilenyaにスイッチしても、リスク低下しないかもしれない。このため、筆者はGilenyaでPML症例が報告されることを予想していた。一例だけでは終わらないだろう。



勿論、Gilenya自体が原因である可能性も残っている。今後、医学誌や学会で症例報告・検討が行なわれるだろう。尚、これまでに36000人がGilenyaによる治療を受けた由である。

バイオジェン・アイデックが米国で2月に承認申請したBG-12(dimethyl fumarate)は免疫抑制作用が小さいようなので、JCウイルス感染者やTysabriによる前治療を受けた患者には適しているかもしれない。Gilenyaと同様に経口剤なので注射嫌いな患者にも向いている。再発予防効果もGilenyaと遜色なさそうだ。Gilenyaは市販後に改めて心臓有害事象が報告され欧米の承認審査機関が検討している。Gilenyaに悪材料が出れば出るほど、BG-12に対する期待が高まる。

リンク:



ビジネスウイークの報道


Dow Jonesの報道(Wall Street Journalのサイト)


Pharmalot(16年のキャリアを持つ薬品業界ジャーナリストのブログ)


FDAとバイエルがヤーズの血栓リスクを警告

FDAとバイエルは、drospirenoneの血栓性疾患リスクを警告するレーベル変更を行った。このプロゲスチンは低用量ピルYAZ(drospirenoneとethinyl estradiolの合剤、和名ヤーズ)などに配合されている。低用量ピルには血栓性疾患リスクが付き物だが、drospirenoneは疫学的研究で他のプロゲスチン配合製品よりリスクが高い可能性が指摘されたため、FDAが検討してきた。バイエルによると、それでも妊娠に伴う血栓性疾患リスク上昇より小さいとのこと。

リンク:


FDAのプレスリリース

バイエルのプレスリリース


5α還元酵素阻害剤と性機能障害
米国で、MSD(メルク)の5α還元酵素阻害剤finasterideのレーベルに服用中止後の性機能障害に関する情報が記載される模様だ。Medpageなどが報じたもので、因果関係は確立していないが、精子障害、射精障害、不妊などの有害事象症例が報告されている由。

finasterideは低容量が男の脱毛症治療薬Propecia(和名プロペシア)、高容量が良性前立腺肥大治療薬Proscar(日本は未承認)として承認されている。性機能に影響するリスクは20年前の初承認当時から認識されており、2011年には米国でEDが追加された。

リンク:Medpageの報道(要登録)


今週は以上です。

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